第1回 板硝子業界はエコガラスでGVCを訴求する [前編]
板硝子協会・専務理事 森谷茂明氏、
板硝子協会・環境技術委員会委員長(日本板硝子(株)・執行役員 建築ガラス事業部門 日本統括部長) 宮之本昭二氏
インタビュアー&執筆 松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
板硝子協会は1947年9月に板ガラスメーカーの団体として設立され、現在、ACC(株)、日本板硝子(株)、セントラル硝子(株)の会員会社によって構成されている。わが国の板ガラス産業の健全な発展をはかり、持続可能な社会の実現に貢献することを目的に設立された。板ガラス産業のグローバル・バリューチェーン(GVC)について伺った。
―――板硝子協会としての温室効果ガス削減の取組みの概要からお伺いできますか。
宮之本氏:板硝子協会としては、経団連や経済産業省による低炭素社会実行計画に参加をしております。その中の計画で、板硝子協会の加盟企業は国内3社ですので加盟率は100%となります。その3社から発生するCO2の排出量の削減目標を掲げて削減貢献の取り組みを行っている状況です。
その中で実現に向けては、板硝子協会加盟3社が製造する住宅の開口部の遮熱・断熱性能に優れた「Low-E(ローイー)」複層ガラスを、われわれは「エコガラス」と呼んでおり、既存住宅への普及が温室効果ガス削減達成のために必要不可欠と考えています。(図1)
板硝子協会としては、「エコガラス」の有効性を広く世間に知っていただくため、単板ガラスと比べた複層ガラスの省エネやCO2削減効果等について、普及活動を行っています。
エコガラスは、複層ガラスの内側に特殊な金属膜(Low-E膜)をコーティングして断熱性能を上げたLow-E複層ガラスで、当協会の加盟3社が製造する製品に対して付けられた共通呼称です。(図1参照)
―――エコガラスの普及率は?
森谷氏:新築住宅の一般の複層ガラスの普及率は98%となっています。新築の集合住宅では70%程度の普及率です。私どもが今、普及を目指しているエコガラスは、その複層ガラスのもう一段性能の良いもので、その普及率は新築住宅で70~80%程度です。
窓の断熱がどれだけ重要かというと、冬は室外に流れてしまう熱の58%、夏は外から室内に入ってくる熱の73%が、窓を通って出入りしています。夏涼しく冬暖かい快適な住まいをつくるためには、窓の断熱性能アップが大事なポイントです。(図2)
我々の温暖化対策であるとともに、消費者の皆さんにとっても快適な住まいを提供できるのが複層ガラスと断熱性能アップしたエコガラス(Low-E複層ガラス)です。
―――住宅の窓に断熱性能、遮熱性能に優れたエコガラスが開発されているわけですが、この高性能ガラスの原料調達から使用、廃棄に至るまでのライフサイクル、CO2排出量削減貢献度について教えていただけますか。
宮之本氏:単板ガラスとエコガラス(Low-Eの複層ガラス)を原料調達から使用段階、破棄段階まで至るところのCO2の発生量を比較したデータがあります。住宅の窓は、ほぼ住宅の寿命と同じ期間使用されることから使用年数を30年と想定しました。単板ガラスのCO2発生量1,080kg-CO2/m2に対して、エコガラス(Low-E複層ガラス)は863 kg-CO2/m2となり、30年間使用した場合における1m2あたりのCO2排出量削減量は217.46kg―CO2と算定され、単板ガラスと比べて大きく削減できます。(図3)
この数値は、エコガラスのLCA報告書(平成26年11月版)窓ガラスのライフサイクル、地球温暖化ガス排出量を参考にして出した数値です。板硝子協会の加盟3社では、新しい製品の開発が行なわれており、この数値より今は性能が向上し、CO2の削減効果はアップしています。
また、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の観点からは、製造段階のエネルギー消費とCO2排出は、エコガラス(Low-E複層ガラス)のほうが多いですが、現在は、単板ガラス製造とほとんど変わらない程度に技術は向上してきています。
―――エコガラスは、製造段階からCO2排出が単板ガラスと変わらないレベルで、使用段階で大きくCO2削減できるのは、GVCの観点から優れていますね。
宮之本氏:この他、エコガラスのメリットとして、高い防露性能があります。冬場に発生する結露は、カビの温床になりやすく、建材を腐食させることがあります。エコガラスは結露を発生しにくくすることでカビを防ぎ、建物を守る効果があります。また、住宅内の窓辺や足元の冷え込みを和らげ、室温差を緩和しますので、トイレやバスルームでの高齢者のヒートショックの防止にもつながります。
〈後編に続く〉