グリーンニューディールとは何か
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
最近、新聞をにぎわしている用語の一つがグリーン・ニュー・ディール(GND)である。米国において温暖化防止と経済格差の是正をもたらす形で行う経済刺激策のことを意味する。かつてルーズベルト大統領が世界恐慌に対応するために行ったニューディール政策を環境問題、格差是正という今日的な課題の下で行おうというものである。10年ほど前、オバマ政権発足に先立って再生可能エネルギーへの1500億ドルの投資(10年間)や500万人のグリーン雇用の創出を公約に掲げ、これを「グリーン・ニュー・ディール」と呼称していたが、今、注目を集めているのは何といっても史上最年少で当選したオカシオ=コルテス下院議員やマーキー上院議員らが本年2月に発表した以下を主な柱とするグリーン・ニュー・ディール決議案である。
https://www.congress.gov/bill/116th-congress/house-resolution/109/text
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- 温室効果ガス排出ゼロを目指す(現在は削除されているが、もともとは「10年以内」というスケジュールも掲げられていた)
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- 再生可能エネルギー等のゼロエミッション源で電力需要に100%対応
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- 交通システムを抜本的に見直し、ゼロ・エミッション車や公共交通、高速鉄道へ投資
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- 気候変動関連の災害への強靭性構築、インフラ更新、建造物の設備更新(エネルギー・水道効率を向上)
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- クリーン製造業の振興、農家・酪農家との協力
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- 送電網の構築・更新(スマートグリッド整備等)
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- 強力な雇用・環境保護を伴う国境調整、調達基準、貿易ルールの採択及び執行
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- 質の高いヘルスケア、住宅、経済セキュリティを全国民に提供
サンダース上院議員のスタッフであったオカシオ=コルテス下院議員は自らを「民主社会主義者」と位置付けており、マーキー上院議員はオバマ政権の際にワクスマン下院議員と共に連邦レベルのキャップ&トレード法案を提案した筋金入りの環境派である。
本決議案については膨大なコストがかかり、「社会主義的」であるとの理由で共和党のみならず、米国の産業界からも強く批判されている。トランプ大統領は早速、ツイッターで「民主党はカーボンフットプリントのために全ての航空機、車、牛、石油ガス、軍隊を恒久的に消滅させようとしている」と揶揄しており、共和党のマコーネル上院院内総務は「民主党は急進左派」とのイメージを与えるため、あえて本決議案を採決に付するとしている。
2020年の大統領選に民主党候補として名乗りをあげているサンダース、ハリス、ウォレン、ジルブランド、ブッカー、クロブシャー等の上院議員も本決議案を支持しており、2020年の大統領選において温暖化問題が大きなイシューになる可能性を示唆している。環境問題が人々の投票行動にどのような影響を与えるか注目される。