小手先ではないプラスチック戦略を

-レジ袋有料化の前にやるべきことー

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 環境省が策定する「プラスチック資源循環戦略」の内容が固まりつつある注1)。本戦略は(1)資源循環、(2)海洋プラ対策、(3)国際展開、(4)基盤整備の4つを重点戦略としている。

(1)
資源循環では、①リデュース等の徹底、②効果的・効率的で持続可能なリサイクル、③再生材・バイオプラスチックの利用促進に取り組むとする。
(2)
海洋プラ対策では、海洋プラスチックゼロエミッションを目指し、①ポイ捨て・不法投棄の撲滅や陸域での清掃活動等、②マイクロプラスチック流出抑制対策、③海洋ごみの陸域での回収処理、④海洋ごみの実態把握に取り組むとする。
(3)
国際展開では、日本の技術・ノウハウで資源制約・廃棄物問題等と海洋プラスチック問題の同時解決に貢献するとする。
(4)
基盤整備では、(1)~(3)の戦略の基盤として①社会システムの確立、②資源循環関連産業の振興、③技術開発、④調査研究、⑤連携協働、⑥情報基盤の整備、⑦海外展開基盤の整備に取り組むとする。

 ミッコ・ ポーニオ氏が指摘して(http://ieei.or.jp/2018/07/opinion180720/)いるが、欧州のプラスチック対策が進んでいるわけではない。埋立処理の多さは驚くべき水準である。本戦略の前文(はじめに)で日本の再生利用率の高さ(日本での有効利用率 84%に対して、世界全体では14%)などにも言及があり、バランスのとれた記述となるよう留意しているようだ。4つの戦略も総論として大方の賛同を得るものにみえる。
 しかし、本戦略で問題は解決するだろうか? 2点指摘をしたい。第1は、原因と対策の乖離、第2はリサイクル手法に関する問題(特に容器包装リサイクル制度における)についてである。

海洋プラ問題-原因と対策の乖離

 「2050年には海洋中のプラスチックの重量が魚の量以上に増加」するという予測を聞いたことがないだろうか。
 これは、2010年に欧州で設立された「エレンマッカーサー財団」がマッキンゼー&カンパニーの協力のもとにまとめた2016年のレポート「THE NEW PLASTICS ECONOMY」に基づくフレーズである。プラスチック資源循環戦略でも言及されているほか、有識者の講演やマスコミを通じて人口に膾炙している。現在、海洋には1億5,000万トン以上のプラスチック廃棄物があると推定され、プラスチック生産量が現状の推移で増え、海洋流出が続くとしたら、「2050年には海洋中のプラスチック量が魚の量以上に増加」するかもしれない、としている注2)。単純計算の結果だが、環境規制を先導したいEUにとってマーケティング戦略的に成功したということだろう。
 プラスチックの使用を世界的に合理化していく必要があることに誰も異論はない。資源は節約すべきであり、環境を汚染してはいけない。今後の流出を減らすことは大事である。
 しかし、レジ袋の有料化やワンウエイ容器に関する数値目標は「戦略」とはとても言えない。理念を掲げることで機運を盛り上げるといった意味合いはあるかもしれないが、戦略ではない。プラスチック資源循環戦略小委員会(第4回)資料によると日本から海洋に流出しているプラスチック量は推計で年間2~6万トン。世界での海洋流出は数百万トンと推計されており、日本の排出をゼロにしても、問題は全く解決しない。問題解決に役立たない戦略はありえない。
 さらに、海洋ゴミの原因となっているものはどのような種類のプラスチックなのかも対策を考えるために必要である。どのような問題においても有効な解決策を立案・実行するには、大きな原因に対して優先的、重点的に対策を検討、実施していくべきものである。
 環境省による海洋ごみの実態把握調査によると、プラスチック廃棄物の重量の4割強、容積の3割弱は漁具等となっている。

環境省による海洋ごみの実態把握調査:漂着ごみ(プラスチック類のみ)の種類別割合

環境省による海洋ごみの実態把握調査:漂着ごみ(プラスチック類のみ)の種類別割合
出典:中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環戦略小委員会(第3回)資料

 個数では飲料用ボトルが最も多く、もちろん対策は必要だが、重量、容積の方が重要だろう。本戦略では漁具等について「陸域での回収を徹底」とするのだが、原因のウエイトに応じた具体策とは言い難い。
 「レジ袋有料化」や「ストロー禁止」はシンボリックな意味はあっても、本筋ではない(ストロー等のカトラリーの重量は0.5%である)。いずれも問題を構成する要素だが、「戦略」ではなく、戦術の話である。日本においては事業者または市町村が適正処理しており、海洋流出に至ることはない。
 現在の議論は、原因のウエイトと対策のウエイトが乖離しているように見える。マスコミ受けする話題にばかりとらわれていると本質を見失ってしまうのではないか。

効果的・効率的で持続可能なリサイクルを
ー日本の強みの活用と弱みの克服

 本戦略では、日本の技術やノウハウを途上国に展開することがうたわれている。成果実現に時間はかかるが、年間2~6万トンしか海洋排出しない日本がレジ袋を有料化するよりも、はるかに理にかなった戦略である。
 戦略立案の基本的手法であるSWOT分析で整理すれば、日本のリサイクル技術と社会的システムは「強み」であり、途上国で発生するであろうニーズは「機会」となる。機会にぶつけて効果のある「強み」、それが日本の技術とノウハウである。あるいは、この「強み」を活かし、逆に「弱み」があれば克服し、破砕しただけの廃プラスチックを輸出によって処理することができなくなる「脅威」に備えることも必要だろう。
 そのためには、現状の強み、弱みが認識されていることが必要である。そこで、日本のプラスチックリサイクルの現状について、その強み、弱みについて述べていくことにする。

84%の有効利用率

 プラスチック資源循環利用協会によると、日本の廃プラ総排出量は899万トン(平成28年)。うち84%が有効利用されている注3)。世界全体では14%であり大変高い数値である。
 一般廃棄物・産業廃棄物に分けると一般廃棄物が407万トン(同)、産業廃棄物が492万トン。リサイクル手法は材料(マテリアル)リサイクルが23%、ケミカルリサイクルが4%、サーマルリサイクルが57%となっている。
 材料リサイクルとはプラスチックごみを選別、破砕し、熱で溶かすことでプラスチック原料を作る手法である。
 ケミカルリサイクルはプラスチックごみを燃やさずに熱分解し化学的に処理する手法で、具体的にはコークス炉化学原料化、ガス化、高炉還元剤化などの方法がある。
 よく「燃やす」ことと同じではないかと誤解されるが、ケミカルリサイクルは資源を循環できる優れた方法である。コークス炉化学原料化では化学的処理によってできた炭化水素油やコークス、有用なガスを利用して容器包装やパソコン部品に使う新品と同様のプラスチック原料や自動車やスチール缶などに使われる鉄、電気を作ることができる。ガス化では合成ガスを利用して繊維や肥料、炭酸飲料等を作ることができる。
 両手法のコスト、リサイクル率、CO2発生量を比較すると以下の表のとおりである。ケミカルリサイクルの技術、設備を有することも日本の優位性の一つである。
 なお、表にある「再商品化率」とは、日本容器包装リサイクル協会が公表している販売量と市町村からの引取量にもとづき「販売量÷市町村からの引取量」を計算した値である(http://www.jcpra.or.jp/recycle/recycling/tabid/428/index.phpの平成28年度実績)。実際にはコークス炉化学原料化では残渣もすべて利用されるため有効利用率は100%に近い。

図表2

 一般廃棄物のうち123.1万トンが容器包装廃棄物と推計される(平成28年度実績)注4)。容器包装リサイクル法に基づくリサイクルが行われている量が65.7万トン注5)。123.1万トンを分母、65.7万トンを分子にリサイクル率を計算すると約53%となる。日本と米国が署名しなかった海洋プラスチック憲章では「2030 年までにプラ包装の最低55%をリサイクル又は再使用」するとしているが、日本のリサイクル率は既に極めて高い。
 この高いリサイクル率を支えているのは、消費者の分別排出、市町村の分別収集と選別保管、事業者のリサイクルコスト負担という役割分担である。
 産業廃棄物のプラスチックごみについても排出者の処理責任で適正処理されており、単純償却や埋立で処理されている割合は小さい。
 ポイ捨てや不法投棄、工場排水からのリークなどがあるとしても、日本は大きな問題のないリサイクルスキームを持っていると言える。
 一方で問題点(弱み)もある。容器包装リサイクル制度の問題を中心に2点指摘したい。

低コスト、高環境性のケミカルリサイクルの伸び悩み

 第一はコスト面、環境面で優位なケミカルリサイクルが4%と普及が進んでいないことである。
 ケミカルリサイクルの拡大については、2013年度以降、地球温暖化対策推進本部が策定する地球温暖化対策計画の具体的な施策の中に盛り込まれているが、設備能力100万トンに対して30万トンしか収集できず、例年目標達成度合いはC評価(見込みを下回っている)となっている注6)
 30万トンにとどまっている理由はある「規制」のためである。あまり知られていないことだが、容器包装リサイクル制度は材料リサイクルを優先する入札を行っている。普通に入札すればケミカルリサイクルのコストは材料リサイクルより低いため、ケミカルリサイクルの処理量はさらに増えるはずだが、入札対象量の半数をコストに関わらず材料リサイクルに配分する運用を行っている。
 「プラスチック」と言っても実際にはPE、PP、PET等の複数素材の総称であり、しかも現在は食品等の商品の保護や安全性あるいは軽量化等のため複合素材の容器包装も増えている。本来であれば、複合素材を含め様々な種類の一定程度汚れたプラスチックが集まるプラスチック製容器包装については、材料リサイクルよりもケミカルリサイクルが適している。材料リサイクルを効果的、効率的に行うには単一素材で一定品質の材料を使うことが望ましい(したがって加工ロスなどの産業廃棄物が材料として適している)。対してケミカルリサイクルでは化学的な処理を行うため、材料の品質が悪くても品質の高いリサイクルを行うことが可能である。
 また消費者の分別排出や市町村の選別作業は材料リサイクルが求める廃棄物の品質を基準として行われているが、ケミカルリサイクルであれば、その労力とコストを省くことができる。
 プラスチック容器包装の分別収集を実施している市町村数は約75%にとどまっている。分別のコストや手間は約25%の市町村が分別収集を実施していない理由ともなっている。
 容器包装リサイクル制度には、材料リサイクル優先のほか、容器包装リサイクル制度は、サーマルリサイクルの一つである固形燃料化を「緊急避難的なもの」という位置づけで認めないというルールもある。材料リサイクル優先の妥当性、固形燃料化を排除することの妥当性とも従来から問題提起されているが、制度は変更されていない。

材料リサイクル製品の販売価格の低迷

 第2の問題は材料リサイクル製品の販売価格が国際価格に比べて低いことである。
 平成28年にまとめられた容器包装リサイクル法に関する審議会報告書注7)では、材料リサイクル優先の見直しなどの論点は看過され、材料リサイクル業者の事業環境改善、材料リサイクルの製品品質の向上が課題として設定された。同報告書によれば、欧州では材料リサイクル製品の販売価格が日本の5~10倍であり、品質向上により販売価格を上げるポテンシャルがあると述べる。品質を上げれば高く売れるというわけだ。そこで、材料リサイクル優先のルールはそのままに、品質向上のための新たなルールが追加され、入札制度はますます複雑化している。
 しかし、リサイクル事業者の現場には日本において販売価格が低いのは、「規制」のためだという声がある。すなわち容器包装リサイクルの制度運用が「国内循環」を原則としているため、需要先が日本国内に限られているためだという。実際にアジア、欧米等から安定的に供給されるのであれば高値で買い取りたいという引き合いがあるという話であり、妥当性は高いだろう。そもそも価格は品質だけでは決まるものではなく、プラスチック原料という汎用的な性質の製品であることを考えれば、品質よりも需給関係の方が価格への寄与が大きいと考えるべきではないか。インフラ整備途上の国であれば、(かつての日本のように)金属であれ樹脂であれ再生材に対する旺盛な需要があるはずだ。
 逆有償によるコスト補填を前提とした既存の複雑化したルールのもとで高コストなリサイクルを続けるよりも、海外も含めた需要側の要求に応じて「高く売れるもの」を作る業者を育てるべきだ。それが真の意味での「持続可能なリサイクル」を実現する道筋である。

さいごに
-材料リサイクル優先等の既存ルールの見直しが必要

 本戦略は「材料リサイクル、ケミカルリサイクル、そして熱回収を最適に組み合わせることで、資源有効利用率の最大化」を図るとしている。是非具体化を望みたい。そのためには容器包装リサイクル制度によるプラスチック製容器包装のリサイクルについて見直しが必要である。
 日本においては、ミッコ・ ポーニオ氏が懸念するような「複雑なリサイクルシステムを導入するようロビイングを続ける「リサイクル業者」と環境NGOの癒着」はないと思いたい。しかし、既に20年近く継続している規制制度体系である容器包装リサイクル制度において、既得権益者の発生や制度の硬直化や官僚化がみられることは否めない。リサイクルを社会に定着させることに寄与した容器包装リサイクル制度であるが、リサイクル手法の最適な組み合わせを阻害する非合理が生じている。
 プラスチック製容器包装のリサイクルの見直しにおいては、①材料リサイクル優先等の既存のルールを見直し、簡素化すること、②複合素材が多く、汚れもある容器包装は分別の手間やコスト(輸送による資源消費、CO2排出もある)のかかる工程を省いて、ケミカルリサイクル中心で処理すること、③サーマルリサイクルを手法として認め、材料リサイクルの残渣の有効利用率を上げること注8)等が検討課題となるだろう。

注1)
出典:http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000180423
注2)
出典:https://www.ellenmacarthurfoundation.org/assets/downloads/The-New-Plastics-Economy-Rethinking-the-Future-of-Plastics.pdf
注3)
http://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf
注4)
出典:http://www.jcpra.or.jp/recycle/recycling/tabid/428/index.php
日本容器包装リサイクル協会に再商品化委託申込みが行われた量から推計したもの。
注5)
日本容器包装リサイクル協会が市町村から引き取った量。ただし独自にリサイクル、再利用を行う市町村もある。
注6)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai38/siryou.pdf
注7)
http://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/admin_info/committee/n/21/youri21_03.pdf
注8)
一般廃棄物を原料に材料リサイクルを行う場合、残渣率を高くした方が製品の品質は高まる。