猛暑・豪雨の地球温暖化との関係のホントとウソ


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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地球温暖化で豪雨が増える

 次は豪雨の話をしよう。
 地球温暖化で豪雨が増えるというのは、おそらくホントである。
 これは、温度が高くなると、大気中に含まれる水分の量が多くなるという関係(クラウジウス・クラペイロンの式と呼ばれる)があるためである(図5)。実際に、大気中の水蒸気量は増加していることが観測されている。これは温度上昇によるとみられる(図6)。直観的にも、夏は他の季節より豪雨が多いことから、納得感があるだろう。


図6 大気中の水蒸気量は増加している
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/climate_change/2014/pdf/2014_2-2.pdf

前例のない豪雨が降る?

 これはウソである。
 ある地点を特定したときに(例えば東京で)、ある水準を超える豪雨の頻度が増えるのは本当である。しかしこのことは、未曾有の豪雨が降るという意味ではない。
 クラウジウス・クラペイロンの式で考える限り、2度温度上昇しても、東京よりあと2度高いところと同じ頻度になるまで豪雨が増えるだけだ。東京より2度以上高いところは日本にも世界にもいくらでもあるが、多くの人が住んでいる(図3、図4)。だから、東京に、人類が経験したことのない豪雨が降る訳ではない。ただし、東京に一定以上の豪雨が降る確率が高まる訳だから、土木工事や予報システムは、それに備えて強化しておいたほうがよい。

豪雨で災害が増えて破局的な事態になる?

 過去のトレンドとしては、一貫して、水害による死者数は減少してきた。図7の左縦軸が対数軸になっていることは、如何にこの減少が劇的であったかを示すものだ。この偉業は、この間、地球温暖化は1度進行した(諸都市では2~3度も温度が上がった)にも関わらず、達成された。治水事業や予報・警報システムの向上の賜物である。今後はAIやIOTを活用した予報・警報システムも充実して、更に死者数は減少するだろう。
 もちろん、極端な水害が起きるリスクは今でもあるし、地球温暖化による豪雨の増大でそのリスクは増大するだろう。だがそれで、この水害による死者数の減少という偉大なトレンドが逆転するような事態になるとは思えない。


図7 水害による死者数は大幅に減少してきた

地球温暖化で東京が水没する?

 これはウソである。
 東京が水没するリスクは今でもあるし(何事もリスクゼロでは無い)、そして、地球温暖化による豪雨の増加や、海面上昇によって、そのリスクが増大するのは本当である。
 けれども、東京が水没するリスクがある最大の原因は、地球温暖化ではない。東京は、温暖化の有無とは関係なく、そもそも今でも水没危険地帯である。
 利根川は今では千葉県銚子市に河口があるが、昔は隅田川・荒川・江戸川の辺りを流れていた。人間が川の流れを付け替えたのである。このため、隅田川・荒川・江戸川の辺りは、もともと氾濫原だったのだ。温暖化で海面上昇が起きるといわゆるゼロメートル地帯(満潮時に海面よりも低い地帯)が増えるけれども、よく図8を見ると、実はもともとのゼロメートル地帯の方が、1mの海面上昇で増えるとされるゼロメートル地帯よりも遥かに広大であることが分かる(なお2100年の海面上昇は最大で80cm程度とIPCCは予測しており、1mには達しない)。
 加えて、高度経済成長期にかけては、工業用の地下水の汲み上げによって、最大で4.5メートルもの地盤沈下が起きた(図9)。これでさらに水没の危険は増した。しかしその一方で、この急激な実質的な海面上昇に対しても、人間は土木工事等で適応してしまい、東京は繁栄している。


図8 水1mの海面上昇によるゼロメートル地帯の拡大(環境省資料)
https://www.env.go.jp/earth/cop3/ondan/eikyou4.html

結論

1)
地球温暖化で猛暑が増えるというのはホント。しかし、異常に寒い日は減るので、異常気象が増えるとは限らない。
2)
東京は過去100年で3度上昇したが何も困らなかった。また、世界には日本より3度暑いところはいくらでもある。だから、あと3度ぐらいの温度上昇であれば、日本が適応できないとは思えない。
3)
地球温暖化で豪雨が増えるというのはホント。だが、過去、地球温暖化は1度進行したにも関わらず、防災能力の向上により、水害による犠牲者は激減してきた。今後も防災努力を続けることで、このトレンドを維持できるだろう。
4)
東京が水没するリスクがあるというのはホント。このリスクが温暖化によって増大するというのもホント。だが何故リスクが大きいかという根本的な理由は、もともと東京が利根川の河口という水没しやすい場所に立地していたことと、過去の大幅な地盤沈下による。東京は、この大変な悪条件にも拘わらず繁栄を続けてきた。

 このように、「リスクがある」「リスクが増大する」といった言葉に惑わされずに、その具体的な意味を考え、人間がどの様にして適応できるかを考えるならば、地球温暖化はそれほど怖れることは無い。
 だからといって、CO2排出を全く削減しなくて良い、とは言わない。しかし、バランスが肝心である。地球温暖化によるリスクの増大はそれほど大きく無く、一定のコストで適応可能に思える。従って、経済を壊滅させても構わないからCO2を2050年までに8割削減しようといった極端な意見には、賛成しかねる。