事故、災害 レジリエンス向上へ

書評:関西大学社会安全学部 著『社会安全学入門:理論・政策・実践』


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2018年5月18日付)

 「社会安全学」と聞いて、どのような学問かすぐに思い浮かぶ方はおられないだろう。社会も安全も随分広い意味を持つ言葉だ。本書の前書きから「社会安全学」の定義を拾えば、「人間社会を脅かす事故や災害の発生を防止したり、それらの強度や発生頻度を抑制したりすることによって被害を軽減するとともに、被害者の救済や被災地の復旧・復興を促進することを目的としており、理工系の分野だけでなく、社会科学系や人文科学系の各専門分野を学際的に融合した、安全・安心のための新しい学問体系」とある。2000年には日本学術会議が「安全学の構築に向けて」という報告書を出していることからもわかる通り、長くその重要性は認識されながらも、あまりに多くの学問分野をまたぐからであろうか、日本だけでなく国際的にも学問体系として確立されていないという。

 本書は10年に日本で初めて安全・安心の問題を教育・研究の対象とする学部・大学院を設立した関西大学の関係者が共同研究の結果をまとめたものである。社会安全学とは何か、人と社会を脅かすリスクにはどのようなものがあるのか、そのリスク分析の手法や社会の防災、減災、縮災に向けた仕組みや合意形成の在り方など、コンパクトな中にも、人間社会を不幸におとしめる事故や災害に関する多様な論点が網羅されている。

 一つの大きな事故・災害を経験すると、それまで想像していたシナリオやリスク評価に欠けていたものやほころびが見えてくる。原子力については、これだけの大きな事故が起こり得ることを十分に想定できていたとは言い難い。

 事故や災害はゼロにできない。しかしゼロに近づける努力、被害を避ける努力に加えて、事故や災害が起こることを前提として、その痛みを緩和する施策も打っておかねばならない。やるべきことはそれこそ星の数ほどあるが、大きな事故や災害から日が経つとそうした非日常への備えは日常生活の中からはじき出されてしまう。

 災害大国の日本国だからこそ、「社会安全学」を体系立てた学問として確立し、事故や災害に対する社会のレジリエンスを高める施策の立案に貢献することができると期待している。これは、海外に対しても大きな貢献となることは間違いがない。4月から関西大学社会安全学部の客員教授を拝命した筆者も、極めて微力ながらそのプロセスに貢献したいと願い、本書を繰り返し読んでいる。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず


『社会安全学入門:理論・政策・実践』
著:関西大学社会安全学部(出版社:ミネルヴァ書房)
ISBN-10: 4623082458
ISBN-13: 978-4623082452