コネクト&マネージ
送電線の空き容量問題
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
地球温暖化対策として、世界的に再生可能エネルギーの普及拡大を進める国は多い。しかし、大量に再生可能エネルギーが導入されることにより、多くの場合、送電線の容量や調整力が不足するなど、既存系統への接続に困難をきたす課題に直面する。現在、日本では、新規に電源を系統に接続する際、「先着優先」のルールで系統の空き容量の範囲内で受入れを行い、空き容量がなくなった場合は系統を増強した上で追加的な受入を行っている。しかし、系統の増強にかかる多額の費用負担と工期の長期化に事業化を諦める発電事業者も少なくない。
イギリスの「コネクト&マネージ」
一方、イギリスやアイルランドなど一部の国では、既存系統の容量を最大限活用し、系統の増強工事が完了する前に、一定の条件下で系統への接続を認める制度を導入している。この既存系統を最大限活用する手法が「コネクト&マネージ」である。イギリスでは、北部エリアの系統の送電容量が十分でなかったため、風力発電(陸上・洋上)を中心とした再生可能エネルギー事業者が計画する1200万kWもの容量が一時接続待ちの状況となった。そのためOfgem(電力規制機関)は、2011年からTSO(Transmission System Operator=送電系統運用者)レベルにおいて、系統増強が完成するまでの間、「コネクト&マネージ」の運用を開始した。コネクト&マネージの対象はすべての電源だが、再エネの割合は将来の接続予定を含め2015年時点で84%を占めている(図1)。
イギリスには優先給電ルールは存在せず、メリットオーダーで出力制御を実施しているが、2013年以降はコネクト&マネージによる接続電源の急増により、系統混雑とそれに伴う出力制御が頻発するようになっている。出力制御量と補償額は2014年に1億ポンド(約154億円)と膨らみ、国民負担が増大した(図2)。意図的に送電網の混雑状況を作り出し、悪化させて故意に補償金を多く受け取ろうとする事業者も現れたため、不正が見られる場合は罰金を科すなど監視を強め、出力制御のコスト削減を図っている。
日本版コネクト&マネージの実現化へ
日本政府の新たな動きとして注目されるのは、イギリスのコネクト&マネージの手法に習い、既存系統の最大限の活用を図る「日本版コネクト&マネージ」の仕組みを実現化していく方針を打ち出したことである。系統は平常時に設備容量すべてを流すのではなく、「1回線が故障した場合でも、送電できる状態を維持する」という国際的な原則のもとで運用されている。系統が単純な2回線の場合は、原則1回線分の容量である50%が、平常時に流すことができる最大値となる。平常時に利用する1回線分では現在運転している電源だけでなく、接続契約を締結済みの運転開始前の電源も含めて評価している。平常時に利用率が50%を超えることはないが、電源の運転状況(稼働率)によって送電線の平均利用率はさらに低くなっているのが現状である。
そのすき間を活用して、より早く効率的に新たな再エネ発電設備を接続していけないか、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)を中心に検討が進められてきた。そのためには、まず送配電事業者は蓋然性(がいぜんせい)のある潮流想定により生じた空き容量を新規電源の連系に活用する「想定潮流の合理化」を行う必要がある(図3の①に相当)。次に日本版コネクト&マネージとして、事故時に瞬時遮断する装置を新規の発電設備に設置することにより、緊急時に確保している1回線50%の枠を解放し、運用容量を拡大する*「N-1電制」注1)(図3の②に相当)の適用を行う。また、系統が空いている時期のすき間の利用を可能とする*「ノンファーム型接続」注2)(図3の③に相当)の適用を行っていくことを検討している。
「想定潮流の合理化」については、2018年度から本格適用を開始する予定で、「N-1電制」については、特別高圧において2018年度早々から先行適用していくことを検討している。「ノンファーム型接続」については2020年度を目途に運用システムの開発を行う見通しである。図4は広域機関が公表した「日本版コネクト&マネージ」実現化に向けて進める取組内容である。このように、今後再エネ大量導入を図るためには、より柔軟な電力ネットワークの運用が不可欠となってくる。
- 注1)
- N-電制:N-1故障時瞬時電源制限
- 注2)
- ノンファーム型接続:平常時出力抑制条件付きの電源接続