第9回日中鉄鋼業環境保全・省エネ先進技術交流会について
藤本 健一郎
日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会 委員長(新日鐵住金株式会社)
日本鉄鋼連盟は、2005年1月に中国鋼鉄工業協会(CISA)から、省エネ・環境保全技術に関する情報交換を目的とする交流会開催の提案を受け、同年7月に第1回交流会を開催し、環境分野における協力に関する覚書を締結した。以後原則年1回のペースで日中鉄鋼業環境保全・省エネ先進技術交流会を実施し、今回で第9回を数えるに至った。
第9回会合は、本年10月25日から26日にかけて、中国・広東省湛江市で開催された。CISAによると、本会議には中国から当初予定を上回る56名の出席者があった(団長はCISA遅京東副会長)。一方、日本鉄鋼連盟からは環境エネルギー政策委員会・佐久間委員長(新日鐵住金(株)副社長)を団長として36名が出席し、日中両国で計92名もの参加者があった。
初日の本会議では、日本からは、日本における省エネ政策と取り組み状況の紹介を始め、実際に実施された省エネ対策の最新事例の紹介が行われ、中国からは、省エネ・環境経営管理とその取り組み状況や、廃棄物処理技術、環境保全技術、省エネ技術の導入事例紹介があり、両国関係者から以下の9つのプレゼンが行われた。
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- 日本鉄鋼業における省エネ・低炭素社会に向けた政策と産業界の取り組み状況
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- LDG圧送工程の効率改善
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- 焼結点火炉の高効率ジェットバーナーの開発
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- 呉製鉄所の熱延加熱炉燃料転換に伴う省エネルギー化
中国側講演テーマ
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- 省エネと排出削減の深化、鉄鋼業における持続可能な競争力の強化
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- 焼結鉱焼結クーラーキルン顕熱リサイクル発電及びSCR脱硝技術の発展及び展望
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- 電気炉サーマルリサイクル及び転炉深度サーマルリサイクル技術利用概要
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- 鉄鋼メーカーの固形廃棄物集中処理など関連問題について
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- 発生源の効果的制御 末端の高効率対策コークス炉排煙排出基準達成の実現
また、2日目には2015年に稼働を開始した宝武鋼鉄集団・湛江製鉄所を訪問し、コークス炉脱硫脱硝設備や圧延ライン、集中管理センターなどの見学を行った。
2005年の第1回目の交流会から10年余りが経過し、この期間に中国国内の高炉炉頂圧回収タービン(TRT)、コークス乾式消化設備(CDQ)といった主な省エネ技術の普及率は80%を上回ったとされる。このように省エネ技術の普及が進展した結果、中国鉄鋼業の現行の関心は、水処理や大気汚染対策などの「環境保全」に関わる技術に移行してきている。また近年、省エネ、環境保全の技術導入といったハード面での「技術単体」対策に加えて、製鉄所の操業や設備の効率的な運用などの管理・操業といったソフト面での「全体マネジメント」対策にも興味が拡大してきているという傾向が見て取れる。更に今次会合では、中国側(宝武鋼鉄集団)よりライフサイクルアセスメント(LCA)のテーマにも触れた発表があった点は注目に値する。
今回の第9回交流会について日本は、「固形廃棄物や経営環境、LCAなどについてプレゼンがあったことは同交流会の潮流に変化をもたらすもので、今後の同会での議論の拡がりを持たせる契機になった。鉄鋼業の持続的発展に重要なテーマについて日中両鉄鋼業が同じ哲学を以て、ともに取り組みを続けていくことが肝要」と評価しており、また中国は、「本交流会は、中国鉄鋼業が先進的技術や事例を日本から学ぶのに役立ってきた。今後も本交流会を続けることが、日中鉄鋼業における環境・省エネルギーへの取り組みに大きな役割を果たすものと認識している。」と総括している。
中国では、生産能力過剰問題への取り組みが開始、推進されるなか、新たに数カ所で最新鋭の環境配慮型の大型製鉄所も稼働開始しており、環境問題に真剣に取り組む姿勢が見て取れる。今後も、中国側の関心の推移にも配慮しつつ、双方にとって有益な会合となるように議論するテーマを選定し、引き続き交流を継続していきたいと考える。