再開発プロジェクトのエネルギーシステムへの期待
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
観光地として知られた奈良を訪れる人は多いが、その中で奈良に宿泊する人が少ないのがいつも問題視されてきた。京都や大阪に宿泊する人が多いのだ。その理由としてよく言われるのが、奈良には宿泊を受け入れるキャパシティとナイトライフの魅力が小さいということだった。これに対応するために奈良県が考えた施策の一つは、奈良市街の外れにある三条大路の県営プール跡地に国際級ホテルを誘致しようということだった。そのホテル事業者が具体的に決まるまでにかなりの時間がかかり、実現するのかなと心配していたのだが、昨年の3月に、マリオットホテルブランドで最高級という「JWマリオット」が日本へ初進出し、「JWマリオットホテルなら」の看板がかかることになると発表された。さらにこの8月、「大宮通り新ホテル・交流拠点事業」が本格的に動き出すと報じられ、県が整備するコンベンション施設などがトップを切って9月に着工することになり、その着工式が開催された。ホテルの建設着工も同時期に予定されており、さらに、同じ街区にNHK奈良支局も移ってくることになっている。
まとまった広さの更地に3つの建物群を新設するのだから、建物の機能だけでなく、最先端でユニークなエネルギーシステムを導入し、それも人を惹きつける要素にすべきではないかと予てより思っていた。そこで奈良県庁の担当部局に問い合わせをしてみたのだが、奈良県が使用するコンベンション施設についても特に特徴のあるシステムの導入は考慮されていなかった。3つの建物の運営主体が異なることと、奈良県のコンベンション施設については、PFI(Private Finance Initiative:公共施設などを作る場合に、民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法)が利用されるために、エネルギーシステム等については、設計・建設・運用をする事業者に一任されているとのことだった。何かの指針でも示していないのかと尋ねたのだが、自然光を取り入れるような設計にするという程度のことしかないということだった。奈良県として特色あるエネルギー施策を推進するという方針が以前から出されていたのだが、エネルギー・環境担当部局との摺り合わせもなかったようだ。
このような新規開発の場合、それぞれの建物がエネルギー効率の高いシステムを導入しようとするのは当然のことで格別のことではない。太陽光発電なども利用されるだろうし、都市ガスを燃料とするコージェネレーションが設置されるのは特別のことではなくなっている。しかし、壁面や窓でも太陽光発電ができるようにするのはどうだろうか。いま各地で具体化が進み始めたZEB(ゼロエネルギービル)を目指すということでも良い。また、3つの建物の間で、電力、熱(給湯、冷暖房など)の相互融通ができるように、エネルギー供給システムを一元化するのも検討に値するだろう。この場合、奈良県が中心になってエネルギー供給事業を行うということもできる。電力については、燃料電池や蓄電池、電気自動車、も組み込んだマイクログリッドとしての制御を行い、電力系統の安定性を高めるVPP(仮想発電所)にすることも考えられる。森林県であることを念頭に置いて、部分的にバイオマスをコージェネやボイラーの燃料にすることが出来るかもしれない。
今回の県営プール跡地再開発には、このような構想を取り入れることは出来なかったのだが、これから具体化するJR奈良駅周辺の再開発など、まとまった広さを対象にするものについて、最先端のエネルギーシステムの導入を、奈良県の政策的指針として示し、推進してほしいものだ。さらには、このような再開発を県や市が計画するにあたっては、ぜひ縦割りの組織をまたがった横割りの対応で全体の計画を策定し、エネルギーシステムとしても先進的で注目を浴びる再開発を実現してほしいと願っている。