エネルギー安全保障を踏まえた「原子力事業」とは


九州大学都市研究センター長・工学研究院主幹教授

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(「日本エネルギー会議」からの転載)

 2016年度の電源構成に占める原子力の割合は2%である。国の長期エネルギー需給見通しでは、2030年には20~22%に引き上げる計画である。このためには、現在の42基あるうちの30程度が再稼働する必要がある。

 しかし実際はその方向には進んでいない。東日本震災後以降、多くの原発を再稼働することも考えられていたが、現実には採算重視で再稼働・廃炉は決まる場合が多い。原発は他のインフラと同様に、老朽化すると配管の劣化などにより事故の可能性が増える。そのため多くの原発は、これから運転延長か廃炉かの選択をしないといけない。

 運転延長をするにせよ、東日本震災後に決めた安全対策に費用がかかるため、小型の原子力発電所のみでなく、最近では大飯原発(118万キロワット)のような大型炉も採算をとることが難しくなり、関西電力が廃炉にする方針を10月に決めた。

 安全対策は、電力会社毎に数千億から兆単位の費用がかかり、電力会社にとって許容できる限度を超えつつある。廃炉でも一基あたり数百億円掛かるが採算の観点からは廃炉が選択されるケースは、これからも増えるだろう。

 その結果として今後も政府の方針が変わらない限り原発シェアの縮小は今後も続くであろう。来年度には政府はエネルギー基本計画の見直し案を閣議決定する方針であるが、廃炉が増えていることもありこのままでは方針を変える必要がある。

 京都議定書発効以降から震災が起こるまで、原子力発電への理解が進んだのは原発が低炭素化に貢献するからであった。実際、原子力が動かない現在、石炭や天然ガスで代替しているため、二酸化炭素排出量は増えている。炭素税を導入することでより更なる低炭素化を進める可能性、ひいては原発支援になるにせよ、よほどの高税率の炭素税でない限り、現在の高額の費用負担は電力会社には負えない額になっている。

 ここで、この先もし一定規模の原子力を維持するならば、どのような条件が必要か考えよう。まず、原子力発電を維持することについては、原発が安価で済むのであれば平均的には社会も支持していることは理解する必要がある注1)。ここでの条件は長期かつ安定的に原発が稼働できるということである。

 しかし、政治家にとって未だに原子力推進を主張することの政治的なデメリットが大きいため、原子力は難しい電源である。そのため、今後は社会的なインパクトが大きい事故がたとえ起きないとしても、民間の自己資金で原発を維持するのは困難になっていく。原発はそもそも初期投資を何十年もかけて回収していくようなビジネスである。これは自由化された市場で電力会社が独自に進めていくには非常に難しい。実際、国が財政的に支援するという意思がなれれば成り立たない。

 今後、難しい課題であるが、エネルギー安全保障の面からそもそも原発をどう維持するか本質的な議論を後回しせずに行うべきである。これは、具体的には何かというと事業主体を国営化とする、またはそれに類する他の電源と別枠にした独立した組織でなければ難しい。

 今までは民営ビジネスでありながら、何かあれば国がサポートするという合意があったが、東京電力福島第一原子力発電所事故での経験からそのサポートは、電力会社が思っていたほどのサポートがないことが分かった。東京電力のような企業規模の大きさであれ、純粋な民間企業が原子力を保持していくのは困難である。実質的な半官半民は責任の所在がなくリスクを負うビジネスには向いてないのである。

 今後、廃炉が増えるに従い、より明確になっていくのが、エネルギー安全保障をどこまで大事であるかと国が見積もるかである。日本にとって原子力発電は安全対策含めて費用が多少高くてもエネルギー安全保障が故に維持せざるを得ないと判断すれば、国の覚悟が必要になる。なければ原子力を維持することは厳しいままである。

 これからも維持していこうと考えるならば、実質多くの個別会社である必要性はないので国営または独立組織であれ1社か2社の組織体が担うということになる。

 このままの流れであれば、民間も国営化には抵抗感が強いため実際には何も大きな変化がなく将来事故が起こればまた同様の現象になりうる。その場合、また国が最後まで責任を負うとは考えられない。

 いまの問題は、国の責任がはっきりしないので電力会社も困っており、エネルギー資源を調達している商社なども困っている。製造業もエネルギーコストがどうなるか分からない日本に見切りをつけて、電気代が安定した海外市場に逃げていくことにもなるだろう。

 温室効果ガス削減の長期目標を考えれば、再生可能エネルギーが安定電源になるまでは原子力は一定の比率を維持することの正当性はある。再生可能エネルギーは今後も支援対象なので、価格もより安価になっていくであろう注2)。その意味では二極論である必要はなく、共存は何も問題ない。(必要があれば、エネルギー安全保障とはそもそも何かは次の機会に記すとして注3)電力料金への影響やリスクの存在も前面に出した上で国家として原子力は必要だと理解を求めることで、社会は今後も原子力を受容するか事故後6年以上経ち、多くのエビデンスもそろったので再度議論する必要がある。

注1)
馬奈木俊介(編著)『原発事故後のエネルギー供給からみる日本経済 – 東日本大震災はいかなる影響をもたらしたのか』ミネルヴァ書房,2016年,およびMorita, T. and S. Managi. 2015. “Consumers’ Willingness to Pay for Electricity after the Great East Japan Earthquake”, Economic Analysis and Policy 48: 82-105.を参照。
注2)
一般的な望ましいエネルギー政策は、馬奈木俊介(編著)『エネルギー経済学』中央経済社,2014年、を参照。環境まで含めた総合的な観点は、馬奈木俊介(編著)『環境・エネルギー・資源戦略:新たな成長分野を切り拓く』日本評論社,2013年、を参照。今後のイノベーションの在り方は、馬奈木俊介・林良造(編著)『日本の将来を変えるグリーン・イノベーション』中央経済社,2012年を参照。
注3)
エネルギー安全保障を考慮した場合、中東からの輸入断絶は短期的には大きな影響はないが、むしろ原子力の事故の短期影響が大きいことが定量的にわかっている。その一方で事故がない場合は、安定電源への寄与は大きい。
Kitamura, T., and S. Managi. 2017. “Energy Security and Potential Supply Disruption: A Case Study in Japan”, Energy Policy 110: 90–104.