未来見通す価値とその限界知る
書評:フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー 著「超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条」
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2017年8月25日付)
「平均的な専門家の予測の正確さは、チンパンジーが投げるダーツとだいたい同じくらいである」
1984年から約20年間をかけて行われた専門家の判断能力に関する評価研究の結果、本書の著者の出した結論は、平均的な専門家の予測は、ほとんど当てずっぽうと変わらないというものだったという。イギリスのEU離脱に関する国民投票や米国大統領選挙の結果に、ご自身の「予測力」にがっかりしたという方も少なくないだろうが、専門家でもそのレベル。がっかりする必要はなさそうだ。
その研究結果を端的に伝える冒頭のジョークがあまりにキャッチーであったが故に、彼の研究成果は、専門家の予測には意味が無い、あるいは、専門家の知識はチンパンジー並みという、本来全く意図していなかったニュアンスをもって受け止められるようになったという。そのことに対する違和感から、あらためて「先を読む」ことを考察したのが本書である。
私がこの本に関心を持ったのは、気候変動対策における予測の価値と限界を考えていたからだ。パリ協定は加盟国に長期戦略の提出を求めているが、2050年の絵姿を描かねばならないのは国家だけではない。気候変動による企業の財務・金融リスクの情報開示を求める動きが強まり、エネルギー関連企業は特に、産業革命前からの地球の温度上昇を2度未満に抑制するというシナリオと、自社の事業戦略や資産ポートフォリオの整合性を分析し、開示することが求められる。
しかし、企業の時間軸とはスケールの異なる超長期の、しかも科学的不確実性を多分に含む2度シナリオとの整合性を考えることは相当に困難だ。未来予測に真剣に取り組む一方で、その限界も踏まえて、予測とうまく付き合わなければならないのではないか。
本書は、予測力を高めるために何が必要かを研究の成果を踏まえて考えると共に、予測の限界もまた説いている。AI(人工知能)に委ねる価値も認めながら、一方で人間の主観的判断の必要も主張する。先を読むことについて「楽観的な懐疑論者」であろうとする著者の姿勢に学ぶことは多くありそうだ。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条
著:フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー (出版社:早川書房)
ISBN-10: 4152096446
ISBN-13: 978-4152096449