太陽光過積載問題

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 一般の人には聞きなれない言葉だが、業界関係者にはすでに当たり前になっている。
 ネットを見ると、「太陽光発電の増設と過積載 パワコンそのまま年間発電量48%アップ。やらなきゃ損!」というセールスフレーズや、「最適な過積載率やピークカット率などシミュレーション」をうたうホームページなど、枚挙にいとまがない。
 従来、太陽光発電設備のパワーコンディショナー(パワコン)の能力はパネルの発電能力に合わせて設置されていた。例えば10kWの太陽光パネルには10kWのパワコンという具合だ。太陽光過積載は、パワコンよりも大きな容量の太陽光パネルを設置することによって発電電力量を増やす行為をいう。この場合、日中ピーク時にパネルが定格出力通りに発電すれば、パワコンの容量以上のパネルの出力はカットされてしまう。しかし、それ以外の時間帯において、本来パワコンの能力をはるかに下回るパネルの発電容量を増加させることで、全体としての発電量(kWH)を増やすことができる。

図1

図1.過積載による増出力のイメージ

 このような設備形成の在り方は否定されるものではない。しかし、問題はFIT制度との関係だ。FIT制度ではパワコン、太陽光パネルいずれか小さい方の出力で設備認定がなされ買取価格が決定される。このため、パワコン能力を据え置いたまま、パネルだけを増強しても設備認定を受けなおす必要は無く、したがって買取価格も設備認定時の価格が維持される。例えば40¥/kWHで設備認定を受けた事業者が、その後パネルのみの増設を行った場合、増出力分も40¥/kWHで買い取られることになる。パネル価格は年々下落しており、パネル増強による限界コストはピーク時のカットオフを織り込んでも買取価格よりはるかに安いため、太陽光事業者による事後的過積載が常態化することとなった。
 冒頭に紹介した、インターネット上にあふれる「過積載のススメ」は、FITの制度設計の穴をうまく利用したものだと言えよう。

図2

図2.太陽光発電(10kW以上)の過積載の推移注1)

 FIT制度における買取価格は適正コストを基に決定されることが原則であるが、事後的過積載はその原則に反する行為だ。平成29年1月25日の再エネ改革小委・新エネ小委合同会議でも過積載がテーマとなり、多くの委員から事後的過積載の問題が指摘された。これを受けて経済産業省は、太陽光発電の事後的過積載についてはその時点での買取価格に変更できるよう告示を見直すことにした。これによって、今後事後的過積載は発生しない(経済合理性が成り立たない)と考えられるが、問題はこれまで行われてきた事後的過積載をどうするかであろう。
 FITの買取総額は今年度ですでに2.7兆円、賦課金総額も2.1兆円を超えた。2030年には買取総額が4.7兆円に達するという試算注2)もある。FITによる国民負担の拡大をどのように抑えていくかは重要かつ喫緊の課題だ。
 太陽光パネルの事後的過積載は、FIT制度における適正コストを前提とした買取価格の考え方からも逸脱しており、告示改正前に実施された事案についても、買取価格の変更を遡及適用することは合理的な判断ではないだろうか。経済産業省にはより踏み込んだ制度改定を期待したい。

注1)
調達価格等算定委員会:「平成29年度以降の調達価格等に関する意見」、2016年12月
注2)
朝野賢司:「固定価格買取制度(FIT)による買取総額・賦課金総額の見通し(2017年版)」、電力中央研究所