建設進む洋上風力発電所
三好 範英
ジャーナリスト
ヨーロッパでは、沖合数㎞の海上に大規模な風力発電施設が次々と建設されている。こうした洋上風力発電所のメリットは、洋上では陸地に比べ強く一定の風が吹き、比較的安定した発電が可能なことや、風車の大型化が可能なこと、陸上から風車は見えず景観や騒音問題をほぼ免れることができること、などである。
世界で最も進んでいるのは英国で、現在、原発4~5基分の5400MWが稼働しているが、ドイツも2016年までに950基の風車が稼働し、英国に次ぐ4100MWの出力にまで達した。計画では2020年までに6500MW、2030年までに2万5000MWの洋上風力発電所を建設する。現在の総電力のだいたい1割程度にあたり、ドイツが進めるエネルギー転換の成否の一つを握るプロジェクトと言っていいだろう。
ドイツで洋上風力発電所建設が緒に就いた頃、建設現場に行って取材した。
2009年8月18日、日差しが強く、風が穏やかな夏の一日。オランダ国境に近いエムデンの飛行場で救命胴衣を着用し、大手電力会社ヴァッテンファルの広報官、ドイツメディアの記者、カメラマンと小型ヘリコプターに乗り込んだ。目的地はドイツ北部ボルクム島沖で建設が進んでいた洋上風力発電所「アルファ・ヴェントゥス」だった。ヘリコプターは順調に北海上空を飛行し、約30分でボルクム島の45km北方に風車群が姿を現した。
管理棟などが入った洋上ヘリポートに降り立つと、360度、陸地の影はなく、水平線が広がっていた。間断なく吹き寄せる平均風速毎秒10mの風が、心地よい。
風車は水深30mの海底に基礎を築き、海面上の高さは約150m(ほぼ霞が関ビルの高さ)。計画されていた風車の数は12基だったが、その時点で5基完成し、風を受けてゆっくりと羽を回転させていた。
小さなボートに数人の作業員が乗り込み、風車の支柱に乗り付けて何か作業をしていた。巨大風車に比べるとボートは豆粒のように小さく見えた。この日は幸いに好天だったが、海が荒れると管理に大変だろう、と想像できた。
ドイツの北海沖は、英国、デンマークに比べ水深が深いなど条件が悪い。英国の北海の風力発電所は2000年に稼働しているが、ドイツの場合、ヴァッテンファルなどのエネルギー関連会社が企業体を設立して建設を開始したのは2006年で、アルファ・ヴェントゥスが洋上風力発電所の初めての建設であり、パイロットプロジェクトの意味を持っていた。
当時から膨大な建設費用が当初から問題とされてきた。アルファ・ヴェントゥスも建設費は総額2.5億ユーロ(約350億円)にのぼり、同じ発電能力の風車を陸上に設置する場合に比べ4倍以上、維持費も2、3倍かかると見積もられていた。
このため固定価格買い取り制度(FIT)に基づく買い取り価格は、1kW時当たり19セントと、陸上風車に比べ2倍の価格に設定され、政府が債務保証をするなどの措置を取った。
それでもなかなか導入は進まず、2020年までに1万MWだった当初の導入目標は、6500MWに下方修正された。2013年6月、シュピーゲル誌(電子版)はドイツ連邦環境庁が、「洋上発電所は建設や管理のコストがかかりすぎる。陸上風力発電所にまだ建設の余地がある」との趣旨の研究をまとめたと報じた。
しかし、この間、予定よりは遅れ気味ではあるが、洋上発電所の建設は進んで来た。そして、企業間の競争により風車の大型化などの技術進歩や建設の効率化が実現し、コストが急速に下がっている、という報道も最近目にするようになった。
2017年4月、同年1月施行の改正再生可能エネルギー法に基づき、洋上風力発電所の最初の入札が行われ4件が落札した。卸電気取引の市場価格に連動し、それにプレミアムを上乗せして買い取り価格が決まる制度が適用されたが、そのうち3件はプレミアムがゼロだった。つまり発電コストの低下により、電力の売却だけで十分利益を得られるとエネルギー会社が判断したことを意味する。洋上風力発電は短期間に競争力を得たといえそうである。
ただ、ドイツメディアなどによると、今後の市場価格が上昇することと設備が値下がりすることが前提で、そうならなければ建設が行われない可能性もある。また、せっかく発電しても、中心的な産業立地圏で今後原発の廃止が続くドイツ南部に電気を運べなければ意味がない。しかし、しばしば報告されているように、南北をつなぐ高圧送電線の建設は反対運動に遭遇し遅々として進んでいない。その点が、今後大きな課題になるだろう。
日本の洋上風力発電は50MW(2014年)でドイツに比べても80分の1程度だが、長崎県五島市や福島県楢葉町沖で浮体式洋上風力発電所が運転を開始したり、実験が進められたりするなど関心は高まっている。ドイツの実績は参考になるだろう。