2018年度米国予算要求におけるエネルギー関係予算


環境政策アナリスト

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「一般社団法人 日本原子力産業協会」からの転載:2017年6月21日付)

 通常、米国予算は2月の予算教書発表から議会での審議を経て9月末までに承認される。米国予算年度は10月から9月までである。ところが大統領選挙がある年は1月就任演説そしてその後政府高官人事が始まるので予算教書の提出は遅くなる。今年の場合2018年度予算(2017年10月から2018年9月)は3月にアウトラインとも言うべき、簡略な予算教書(行政管理予算局Analytical Perspectives)が提出され、5月23日にフルスコープの予算教書(A New Foundation for American Greatness) が提出された。同予算案総額は4兆940億ドル。メディケア(老齢者医療保険)やメディケイド(低所得者医療扶助)、社会保障費など義務的支出を差し引くと、自由裁量予算は1兆1,503億ドルとなっている。ところで2017年度予算は昨年10月までに承認されず、2016年度予算を暫定的に継続する決議をしていたが、5月4日上院が2017年度予算を可決し、成立した。今回は2018年度予算要求のうちエネルギー関係予算の動向を報告する。

1.2018年度予算の概要

 トランプ大統領は2018年度予算を米国政府の改革および米国経済への影響のための全般的なビジョンを反映したものとみている。他の改革の柱すなわち社会保険改革、税制改革、移民改革、規制緩和、米国エネルギー開発、教育改革を含め8の改革がトランプ政権の国内政策のアジェンダとなっている。2018年度予算要求で特徴的なことは国防費を増加させ、民生部門を削減していることである。たとえば福祉、貧困対策、メディケイド(低所得者医療扶助)など社会プログラムは大幅削減されている。
 個別的な点としては以下が注目される。

予算要求増減 国防総省、国土安全保障省、退役軍人省を除くほとんどの省が予算を削減されている。その中で削減率の大きな省は、保健福祉省、住宅都市開発省、国際開発庁等の国際プログラム、環境保護庁、労働省、農業省である。比率としてみた場合、環境保護庁(31.4%)が最大の削減率である。環境規制の緩和を反映した格好だ。

インフラプラン トランプ大統領は大規模なインフラプログラムを要求している。しかしながらこれまでの政府によるインフラプログラムはこの予算要求に沿ったものとなっていない。トランプ大統領は1兆ドルのインフラ投資をして雇用を拡大するとしてきた。いまこの1兆ドルのインフラ投資は、連邦のファンド、連邦のファンドによらないインセンティブ、政府の関与がなければ実現しなかったであろうプロジェクト(例:キーストンXLパイプライン)の合算で到達できるという表現になっている。

財政均衡 トランプ政権のプランのひとつの2027年連邦財政均衡化のために、トランプ政権はメディケア(老齢者医療保険)・メディケイド(低所得者医療扶助)、社会保障費などの義務的支出を差し引いた自由裁量予算のうち非軍事部門予算を毎年2.2パーセントずつ削減し、3,850億ドルにすることで達成可能としている。

行政改革 3月13日トランプ大統領は「行政再編成包括プラン」という名の大統領令に署名をした。今後の予算審議は連邦政府の再編成に関する議論との関係で進むものと考えられる。ただしこの大統領令は2019年度予算教書において全面的な考慮がなされることになろう。

2.エネルギー省関連予算

 エネルギー省予算総額については、2017年度予算の297億ドルから280億ドルへ5.6%削減されている。しかしながらその削減率は、米航空宇宙局(NASA)の0.8%に次いで2番目の少なさである。
 原子力研究開発予算については、エネルギー省(DOE)全体の予算削減に動向にあわせ、2017年度の9.84億ドルから7.03億ドルに削減(28.7%)されている。ただし、他のエネルギーと比べるとその削減額は最小ということができる。エネルギー効率化・再生可能エネルギーについては2017年度予算の20億ドルから6.36億ドルへの大幅減(69.3%)である。また、送電網・エネルギー信頼性強化は同2.06億ドルから1,2億ドル(41.7%)、化石エネルギー研究開発は6.31億ドルから2.8億ドル(55.7%)の大幅削減となった。原子力予算を個別に見る。

小型モジュール炉ライセンス支援 2017年度予算では6,240万ドル計上されていたが、ゼロになっている。すでにニュースケールがNRCにライセンスを提出するなど同プログラムの役割は終わったとトランプ政権は認識している。

炉型コンセプト調査・開発・実証 2017年度1.41億ドルから9,400万ドルへ削減。うち2,000万ドルは軽水炉持続可能性プログラム、6,400万ドルは新型炉技術プログラム、1,000万ドルは多目的高速試験炉プログラムに充てる。2017年度予算では産学の複数の研究所から専門家を招いて多目的高速試験炉の技術的要件・詳細を検討することを始めたが、トランプ政権のもとではこれを完成し、同試験炉の技術属性を特定することとしている。

燃料サイクル研究開発 2017年度2億340万ドルから8,850万ドルへ削減。事故抵抗性の著しい軽水炉燃料コンセプトの開発に対する産業支援および高速試験炉のための燃料開発の開始が含まれる。ここで注目されるのは韓国と共同で行う、使用済燃料の電気化学リサイクルまたは他のオプションの技術的・経済的フィージビリティーおよび核不拡散上の受容性の研究が含まれていることである。

原子力エネルギー可能化技術 2017年度予算1.14億ドルから1.05億ドルへ横ばい。デジタル計装・制御技術、革新的製造組立技術、新型冷却技術など分野横断研究による次世代炉および燃料サイクル技術支援を継続。

ユッカマウンテンプロジェクト ホワイトハウスは前政権で予算をカットしていたユッカマウンテンプロジェクト・中間貯蔵に1.2億ドルを計上。ユッカマウンテンプロジェクトは9,040万ドル、中間貯蔵は660万ドルが充てられている。残り230万ドルは本プロジェクトを運営する新組織のために使われる。2018年度予算では原子力廃棄物基金費用確保を2020年度に再開する旨が要望されている。これでNRCがライセンスプロセスを再開することおよびユッカマウンテンサイトの運営・メンテナンスが再開することになる。これにより83人が同プロジェクトに従事することになるとしている。他方で前政権で検討されていた「統合型廃棄物運営システム」等は予算をつけていない。

MOXプロジェクト トランプ政権はMOXプロジェクトについては前政権と近いポジションをとると言明している。2018年度予算では2.79億ドルを計上し、MOXプロジェクト建設終了、プルトニウム希釈・廃/棄を進めたい意向である。議会が承認をすればDOEはMOX主要業者にこのプロジェクトのための施設の場所を選定、建設・設計・支援・調達を手仕舞いとすることにしている。

3.今後の見通し

 2018年度予算要求は今後数ヶ月かけて上下両院の歳出委員会を中心に審議される。2017年10月1日の2018年度予算の開始に間に合わない場合、議会は現在の予算の継続決議をしたうえ審議を続けることができる。最悪の場合予算がまとまるまでに政府閉鎖の危険もある。
 当然、民主党は本予算要求を厳しく批判をすることが見込まれる。同時に共和党もふたつに分かれることが考えられる。ひとつは全般的な方向性は支持を表明するグループ、他方は提案されている削減項目に強く反対するグループである。
 現在ワシントンで議論されているのは本予算要求の根幹をなす経済的前提である。たとえばホワイトハウスは、短期的実質GDP成長が2017年2.3%、2018年度2.5%と、ここ数年の伸びよりも高く見込んでいることである。また2020年までの成長は次第に高まり、3.0%になると見込まれている。

出典:
国際技術貿易アソシエイツ
NEDOワシントン事務所(2017年5月26日)