福島第一原発訪問記(2)

いわきから旧エネルギー館へ/東京電力の福島での活動・原子力損害賠償制度


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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※ 福島第一原発訪問記(1)

福島第一原発までの道のり

 上野からいわきまでJR常磐線の特急で約2時間。いわき駅周辺はいくつかのショッピングモールもあり、買い物客や学生が多い。


当日は雨だったため、この写真は別の日に撮影したものを掲載

 実はいわきは避難されて来た方も多く、全国的に見ても地価の上昇幅が大きい地域となっている。平成26年の地価公示の変動率上位の順位表(全国・住宅地)注1)を見ると、地価上昇率上位10位の中に「いわき市」から3か所もランクインしている。急速に人口が膨らんだ注2)ため、病院の混雑や交通渋滞など避難された方、受け入れた方双方にご負担がかかったことなども報じられた場所である注3)。本当は久しぶりに、そうした状況がどうなっているかのヒアリングを行いたいところではあるが、今回はいわき駅で電車からバスに乗り換えるだけで通り過ぎる。

 駅前からバスに乗り込み、太平洋を右手に北上すること1時間強。旧福島第二原子力発電所PR館(旧エネルギー館)に到着した。

図1
福島の原子力発電所位置関係等 
提供:東京電力ホールディングス株式会社

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 以前は、福島第一原子力発電所からちょうど20kmのところにあり、震災当時から事故収束・廃炉の拠点となっていたJヴィレッジが視察の拠点にもなっていたが、2018年7月からは本来のサッカートレーニング施設として再び活用されることが決まり、改修工事が行われている。そのため、以前福島第二原子力発電所のPR施設であったところを改装し、2016年12月から視察者の集合場所等として運用されている。なお、Jヴィレッジは2018年7月に一部開業、19年4月の全面再開を目指していると報じられている注4)
 旧エネルギー館は、PR施設であった当時のファンシーな外観が平和な時代を想起させて物悲しい。地域からもふれあいの場として期待された施設であったことでさらにやるせない気持ちにもなったが、東京電力はここを将来的には廃炉の資料館にしていくこともアイディアの一つとして考えていると報じられている注5)。地域の方々が将来的にどのような施設がそこにあることを希望されるかによるだろうが、この施設が「原発事故を二度と起こさないという誓い」を示す場所になるのであれば、それは大きな意義を持つだろう。


提供:東京電力ホールディングス株式会社

 視察チームはまずこの旧エネルギー館で、サイト内で進む作業の進捗、作業環境の改善、あるいは今後の計画の全体像など一通りのレクチャーを受けた。説明してくださったのは、東京電力福島復興本社視察センターの野呂さん。震災後2012年10月からずっと福島第一原子力発電所の状況説明や視察者への対応を担当しているそうだ。


提供:東京電力ホールディングス株式会社

 東京電力は、2013年1月1日に福島復興本社を設立した。福島に勤務する社員が約1600名。福島県内にある猪苗代電力所(水力)や広野火力発電所なども含めると、福島県内に勤務する社員は約4000人になるという。その他、避難されている世帯の屋内清掃や住宅周辺や地域の神社・墓地などの草むしりに従事するため毎日200~300名程度が東京電力の他事業所から訪れ、その累積は33万人日を超えたという(2017年3月時点)。

 現場の視察からは話が脱線するが、原子力損害賠償制度の研究に取り組んだ経験から、先日も原子力事故の負担のあり方について朝日新聞のインタビューを受けた注6)。詳細はその記事をご覧いただきたいが、今でも「東電を潰すべき」という論は強く、私と対峙する形でインタビューをされておられたもうお一人の識者は東電を法的整理することを主張しておられた。
 東京電力法的整理論は、感情的には理解を得やすい。しかし、事故を迅速かつ確実に収束させるための専門的人員や資金の確保を可能にするためにも、被害を受けられた方たちへの賠償を責任をもって遂行するためにも、東電を「潰す」ことが問題解決に通じるとは考え難い。これは法や市場の安定性にも大きな影響を与える課題であり、そのことは別に論じる必要があり筆者のこれまでの論考をご参照いただきたいが注7) 、今回現場を訪れ、実際に社員の方たちの話を伺えば、いかにそれが現実的ではない論かがわかる。廃炉や賠償、そして福島復興に向けた現場は、東電社員のお詫びの気持ちで支えられている。東電を法的整理して、電力事業など収益事業に取り組む「good東電」と、賠償や廃炉など非収益事業を専門とする「bad東電」に分けて別法人としてというような形をとれば、廃炉や賠償、福島復興への責任感が薄くなることは避けがたくなるだろう。深々と頭を下げ、お詫びの言葉を述べてから現状の説明を続ける野呂氏の言葉を聞きながら、これが法的整理された後の別会社の社員であったら、我々はその人の言葉をどう受け止めたのであろうかと、そんなことを考えていた。


視察終了時には東京電力福島復興本社代表の石崎さんも来てくださった。
震災後地域を回り頭を下げ続ける。それだけに「元に戻すというのは難しい」と現実の厳しさも口にする。しかしだからこそ「元に戻す以上の街づくりに貢献したい」という。
提供:東京電力ホールディングス株式会社


旧エネルギー館と道路を挟んだ向かいにオープンした商業施設。
公募で募ったアイディアの中から、町のシンボルである夜の森地区の桜並木を想起させるこの名前が選ばれたという。
提供:東京電力ホールディングス株式会社

注1)
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/2014/31.html
注2)
なお、避難されて来た方の多くは住民票を移さないので、公的な調査結果と実際の居住人口の乖離が生じている。
注3)
例えばWEDGE 
福島の人々を苦しめる 賠償金の軋轢 福島「3年半」の現実(その1)(その2)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4356
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4791
ハフィントンポスト【3.11】「避難者、帰れ」落書きから2年 チェルノブイリを参考に始まった、いわき市民による取り組みとは?
http://www.huffingtonpost.jp/2015/03/09/iwaki-jc_n_6789370.html
注4)
http://football-station.net/b/2016/11/090274.html
注5)
2014/01/08 福島民報
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2014/01/post_8979.html
注6)
http://www.asahi.com/articles/DA3S12796283.html
「(争論)21.5兆円、私も払う? 竹内純子さん、除本理史さん」
注7)
21世紀政策研究所 「新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/131114_01.pdf

次回:「福島第一原発訪問記(3)」へ続く