PETボトルからPETボトルへ

地球にやさしい完全循環型リサイクル


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

印刷用ページ

(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年5月号からの転載)

 川崎市内で開催された「川崎国際環境技術展2017」で講演する機会があり、同市の環境問題への取り組みに触れました。公害問題の克服に向けて取り組んできた同市は、環境技術などの知見を蓄積し、産業と都市の再生を果たしました。容器包装リサイクル法が1997 年に施行された後は、「川崎市エコタウン事業」の一環として、東京湾岸部で資源リサイクル施設を整備しています。その中の1 つに完全循環型のPET ボトルリサイクル施設があるとうかがい、見学させていただきました。

ボトルtoボトルの新技術

 日本では77年、醤油用に初めてPETボトルが使われました。その後、82年の食品衛生法改正により清涼飲料への使用が認められて以降、PETボトルの需要は急速に拡大しました。PET ボトルリサイクル推進協議会によると、2015 年度の指定PET ボトル(飲料、特定調味料)の販売量は56万3000トン。そして同年度の指定PETボトルの回収量(キャップ、ラベル、異物を含む)は、市町村分別適合物量が28万1000トン、事業系ボトル回収量が22万トンの計50万1000トンとなっています。
 PETボトルは、ポリエステルの一種、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からできていて、そのリサイクル技術の主流は「マテリアル(材料)リサイクル」。マテリアル(物)からマテリアル(物)へと再利用されています。卵パックなどの食品用トレー、インテリアや衣料用の繊維製品、成形品の回収ボックスや文房具など、さまざまな用途に再利用されています。しかし、再生品は使用後に焼却処理され、新たなPET樹脂をつくるため石油資源が消費されています。
 そこで注目したのが、PETボトルからPETボトルへ再資源化する「ボトルtoボトル」です。通常のマテリアルリサイクルでは、PET樹脂に入り込んでいる異物の完全除去は難しく、使用済みPETボトルから新しいPET ボトルへリサイクルすることは困難です。再生樹脂に微小な異物が残ってしまうと、食品用として安全基準をクリアできません。
 研究を続け、PET ボトルを化学的に分解してPET原料に戻し、再びPET 樹脂を作る「ケミカルリサイクル(化学再生法)」によるボトルtoボトルが開発されました。
 04年9月、内閣府食品安全委員会で承認されたケミカルリサイクルの方法の1つがPRT 方式(アイエス法)です。

 ケミカルリサイクルのほかに、「メカニカルリサイクル(物理的再生法)」によるボトルtoボトルの技術もあります。

施設内を見学

 今回訪ねたのは、08年10月に川崎市臨海部に設立された東洋製罐のグループ会社、ペットリファインテクノロジーの工場です。国内唯一のケミカルリサイクルによるボトルtoボトルのリサイクル施設を有し、使用済みPETボトルの処理能力は年間2 万7000 トン、再生PET 樹脂の製造能力は2万3000トンです。

再生PET 樹脂で作られた商品

 同社管理営業本部営業グループ兼広報担当の伊藤利子係長に施設を案内していただきました。広い工場用地(約5.1万㎡)には、ベールと呼ばれるPETボトルを圧縮・梱包したものが所定の場所にたくさん積まれています。
 「使用済みPET ボトルのベールから缶やびんを自動分離した後、粉砕・洗浄を行います。ベールに多少含まれているキャップやラベル、色付きPETボトルなどを事前に分離する必要はありません。できたPETフレークにエチレングリコールを加え、BHET と呼ばれるポリエステル樹脂の原料に分解・精製しますが、この間に行う数段階のろ過行程でPET以外の異物を除去し、活性炭を使って着色材を吸着・除去します。さらにイオン交換樹脂で微量の金属イオンを除去し、高濃度のBHET にした上でPET樹脂に仕上げます」(伊藤係長)

ペットリファインテクノロジーの工場=川崎市

使用済みPET ボトルのベール

――課題は?
 「日本で回収されている使用済みPETボトル約60万トンのうち約半分の30万トンが中国に輸出されています。市町村が回収した使用済みPETボトルは、主に日本容器包装リサイクル協会(容リ協)が年2回行う入札で再生処理業者が仕入れていますが、国内向けの供給が不足している状況です。容リ協に登録する再生処理業者の年間処理能力は約40万トンありますが、自治体が容リ協の入札に出すのは年20万トン程度。当社も独自ルートで産業廃棄物などから原料の約4 割を調達しています」(伊藤係長)
 再生PET樹脂の価格はバージンPET樹脂の価格に影響を受けます。バージンPET樹脂が値下がりすると、再生PET樹脂の競争力が損なわれるので、原油価格の動向も懸念されています。

PET フレーク

完全循環型リサイクル

 同社は、ケミカルリサイクルによる耐熱タイプの再生PET樹脂の開発に成功し、常温、低温、高温充填の全充塡方式に対応できるようになりました。味の素ゼネラルフルーツ(AGF)がこの再生PET樹脂を採用し、16年春から主力ボトルコーヒー全商品に100%使用しています。ケミカルリサイクル材を使用することにより、原料として年間約2000トン相当(概算)の石油資源使用量を削減できると言います。
 ペットリファインテクノロジーとAGF、東洋製罐は「ケミカルリサイクルによるPETボトルの循環利用」について16年10月、「第42回資源循環技術・システム表彰」で経済産業大臣賞を受賞しました。独自に開発したケミカルリサイクル技術により、使用済みPETボトルをあらゆる種類のPETボトルに使用可能な高品質なPET樹脂に再生できる循環型リサイクルを実現し、評価されました。完全循環型リサイクルは、限りある天然資源を繰り返し半永久的に再生利用でき、ごみの埋め立て処分量を減らすことにも貢献します。原料調達コストを抑えることが事業継続のカギで、国内でより多くの使用済みPET ボトルが循環する仕組みが求められます。