低炭素社会の実現に向けた水素エネルギーについて(3)
-熱需要におけるCO2フリー水素による化石燃料代替-
矢田部 隆志
東京電力ホールディングス(株)技術・環境戦略ユニット技術統括室 プロデューサー
※ 低炭素社会の実現に向けた水素エネルギーについて(1)、(2)
二次エネルギーであるがゆえの課題
【6】ガス体エネルギーとしての活用策
次に水素を消費する側であるが、すでに設置されているボイラ等既存設備・インフラを活用する方法もある。ボイラ用燃料であれば可燃性ガスが混合されていれば概ね用が足りる。この場合、必ずしも純水素にこだわる必要はなく、都市ガスとの混合が現実的な手段といえる。
しかし、ガス機器側が水素混入後のガスに対応していなければならない。さもなければ、すべてのガス機器を交換せざるを得ない。ガス機器の交換を極力避けることが水素エネルギーの初期の需要喚起につながると思われる。
化石燃料に水素を混入させて利用する場合、安全面を不安視する意見もあると思うが、ガス機器についてはガス用品の技術上の基準等に関する省令により規定されている。都市ガスの規格も同省令に謳われており、燃焼速度(MCP)と燃焼性指数の一つであるウォッベ指数(WI)の範囲で種別分けすることが定義されている。都市ガスの主流である13AはMCPが35~47、WIが52.7~57.8の間で定義されている。
13Aの発熱量を都市ガス事業者間で比較すると、首都圏の都市ガス事業者は45MJ/Nm3であるが、東北地方では県内油田から採掘される発熱量の高い天然ガスを主として用いているため50MJ/Nm3を約款に謳う事業者がいる。同様に中越地方では42MJ/Nm3を約款に謳う事業者もいる。同じ13Aでも事業者の間で発熱量に10%以上の差が生じているのである。水素の高発熱量は12.8MJ/Nm3であり単位体積当たりの発熱量が13Aに比べ約1/3であることから、都市ガスに10%(体積比)の水素を混入すると発熱量の減少は7%程度になる。東北地方の50MJ/Nm3の都市ガスに水素を10%混入すれば、むしろ首都圏の都市ガスの発熱量に近づく。
13Aの代表的な発熱量である45MJ/Nm3の場合、最大22.2%まで水素を混入することが可能である(図10)。
このように13Aの基準も維持できることから水素の都市ガスへの混入によって生じる課題は技術的に少ないものと思われる。
もちろん、ガス事業法を整備することや熱量調整における規制緩和等、法令・規制面における整備も必要と思われるが、技術的に課題が少ないのであれば、化石燃料の消費を削減する方策として都市ガス混入の検討を加速する必要がある(図11)。
なお、消費者が各々需要場所で都市ガスとCO2フリー水素を混合させていては、当然非効率になる。需要家側の設備に変更を加えない方法として、欧州のように天然ガス導管に水素を混入し、そのままガス導管で供給できれば効率的に水素供給ネットワークを構築できるうえに、輸送に関わる費用を抑えることもできる(図12)。
【7】CO2フリー水素ガスの普及策
現在、水素エネルギーは化石燃料に比べ割高であり、このままでは普及が見込めない。政府もロードマップで、商用開始時に海外から30円/Nm3(CIF価格)以下での水素の輸入を目指すとしている。
発電事業として水素を活用した時の経済性であるが、水素価格を30円/Nm3とした場合、発電単価は17円/kWhとなり、石油火力よりは安価になるが、LNG火力や石炭火力に対しては経済性に劣るという試算結果が報告注2)されている(図13)。
- 注2)
- 経済産業省(2015) 水素発電に関する検討会報告書