低炭素社会の実現に向けた水素エネルギーについて(2)
-熱需要におけるCO2フリー水素による化石燃料代替-
矢田部 隆志
東京電力ホールディングス(株)技術・環境戦略ユニット技術統括室 プロデューサー
海外で進む電力の補完技術
【4】再生可能エネルギーによる発電と電力系統
水素エネルギーは二次エネルギーであるがゆえ製造方法によって品質や環境性等に差が生じる。中でも、ロードマップのフェーズ3で謳う製造から消費に至るまでエネルギー起源でCO2が発生しない水素は、化石燃料改質水素との差別化を図るために「CO2フリー水素」と呼ばれる。
このCO2フリー水素はP2Gによって造られるが、PVや風力発電で発電された電力のうち、気象変動によって品質が安定しない電力や、需要を上回る余剰電力の活用が検討されている。現在議論されている水素エネルギーは、電力を水素に変換、貯蔵、再度水素を燃料として発電するというものであり、発電の平準化対策の色が濃い。すなわち「電力貯蔵技術」としての評価に重点が置かれているのである。
ドイツではエネルギー転換政策(Energiewende)に基づき再生可能エネルギー普及に力を入れている。同政策では再生可能エネルギーによる発電量 を2025年に40~45%、 2035年には55~60%まで引き上げる高い目標を掲げている。その結果、2000 年からの15年間で一次エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合は2.9%から12.5%と約4倍に増加した注1)。中でも電力では6.6%から32.4%とおよそ5倍の伸びを示している。
このエネルギー転換政策によって再生可能エネルギーによる発電設備には様々なインセンティブが与えられ、急速な伸びを示した一方、発電設備と接続する電力系統にはインセンティブが与えられていないことから、再生可能エネルギーを利用する発電設備の増加に電力系統が追従できず、電力の安定供給に支障を来すようになった。その結果、発電した電力が活用できないという新たな課題を引き起こした。
余剰電力の対策としては電力系統の容量を増強する方法がある。しかし、送配電線の増強には、用地取得から竣工まで時間を要することと、それに伴う費用が必要であり、現実的に増強には限度がある。
このため、再生可能エネルギーを貯蔵する技術として水素エネルギーに注目し、同じガス体エネルギーであり膨大な供給容量とネットワークが整っている天然ガスの供給網の活用に着目したのである。このガス供給網に電力から変換した水素を混入することで、再生可能エネルギー発電設備の稼働率向上とロシア等諸外国からの輸入に依存している天然ガスの輸入量抑制を目指している。すなわち、ドイツでは水素エネルギーを需要側での化石燃料(特に天然ガス)の代替としてP2Gを活用しているのである(図6)。
日本で、P2Gを電力貯蔵技術として活用することを模索しているが、充放電ロスが他の電力貯蔵技術に比べ多いことが課題である。電気を水素に変換する工程、利用時に電気に変換する工程、この2回のエネルギー変換工程が充放電ロスを倍増してしまうのである。この場合、得られる電力量は水素を製造するために消費した電力量の4割程度まで目減りするという報告も公表されている(図7)。
将来、再生可能エネルギー起源の電力が無尽蔵に作られる時代が訪れればこの充放電ロスは不問であるが、今々は再生可能エネルギー発電所の稼働率の向上が求められる中、この充放電ロスを低減させることも重要な課題であるといえる。
したがって、再生可能エネルギー起源の電力は貯蔵することなくそのまま電力として利用することを優先し、系統電力の品質を低下させる懸念がある変動電力や経済価値の低い時間帯での余剰電力を中心に水素へ変換するケースが妥当であると考えられる。
また、水素エネルギーは蓄電池に比べ、物質的に劣化や放電しないことから、中長期的なエネルギー貯蔵に向いている。さらに、ガス体エネルギーであることから燃焼あるいは運輸部門など電力を活用しにくい需要で取組む必要もある。
- 注1)
- Evaluation Tables of the Energy Balance for Germany (ARBEITSGEMEINSCHAFT ENERGIEBILANZEN e.V.)