トランプ政権のエネルギー政策の行方~原子力を中心に
前田 一郎
環境政策アナリスト
(NRCの動き)
NRCはポスト福島対応から低価格天然ガス対応時代へのシフトを図っており、いまや共和党が両議会で多数を占めることになった中で予算削減、議会の監視強化、新規制による産業界への負担軽減などのプレッシャーに曝されることになる。主な現下の進行形の動向は下記のとおりである。
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- 1月26日、すでに触れたテキサス州アンドリューズで稼働が始まったウェイストコントロールスペシャリスツ(WCS)からの申請の正式なレビューを開始させた。WCS社とはヴァリー社というコングロマリットの一子会社であり、2011年業務を開始したばかりの会社である。すでに地元の了解は取り付け、アンドリューズ郡政府も本プロジェクトに全会一致の承認を与えている。本プロジェクトの動向の詳細は原子力産業会議ホームページ米国の原子力政策動向シリーズ2015年7月14日付け「米国の使用済燃料を巡る動向について」を参照されたい。
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- NRCは2012年にサイバーセキュリティーロードマップ第2フェーズを策定して原子力発電所のサイバーアタックから防御するために実行計画を開始したが、2017年末に完成させる予定である。
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- 1月12日オレゴンベースのニュースケール社(NuScale)はNRCに対して同社が開発した小型モジュール炉の設計承認申請をおこなったことを発表した。同日、テネシーリバーオーソリティー(TVA)から小型モジュール炉をテネシー州オークリッジのクリンチリバーサイトに適用する旨の早期立地承認申請を受理した。また1月24日にはテレストリアルエナジー社はNRCと溶融塩炉の承認に関して2017年に予備的な議論を開始する旨発表をした。同社は2019年に19万kWの溶融塩炉の承認申請をする予定である。
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- 1月19日NRCはバージニア州ミネラルにおけるドミニオン社ノースアンナサイトへの建設運転一括許可の最終的な安全評価レポートを完成させた。NRCは最近デューク社によるサウスカロライナによるギャフニーサイト、同デューク社によるフロリダによるレビー原子力プラント1・2号機については建設運転一括許可を与えた。いずれもAP1000の炉型である。
(第115回議会の動向)
共和党与党となった上下院は親原子力である。先に述べたように問題は原子力への政府の支援と市場メカニズムへの依存とのバランスをどうとるかである。この観点から言えば原子力への支援という議論は新型炉開発への支援、ユッカマウンテンプロジェクト再開の支援、NRC予算の削減、産業界への「過剰規制」への対応ということなどが取り上げられるよう。特にユッカマウンテンプロジェクト再開問題のしんぎは、法律はすでに存在しているのでエネルギー省関連歳出予算のプロセスを通じて行われるものと考えられる。
(産業界側の対応)
上記のような動きをうけてNEIは1月6日副理事長兼CNOだったピアトランジェロの引退を発表した。これはファーテル前理事長、フリント・チーフロビイスト、コミュニケーションヘッドのピーターソンらの引退に同調した動きと見られる。マリア・コースニック新理事長とコーヘン副理事長(対外担当)、ポーラックCNO代行、リッチCFOらに一新された。コーヘン副理事長のもとマーシャル(政府担当)、コテック(公共政策担当 DOEから転身)らが固める。
(おわり)
以上のとおりまだ人事にも時間がかかりそうであるためトランプ政権のエネルギー政策の全体像を予測するのは難しい。2003年以来大統領、上院・下院と共和党が独占することとなった今回政権であり、空席だった最高裁判事にゴーサッチ氏を指名し、重要人事を含め、陣容を固めつつあるかに見えるトランプ政権であるが、今後の見通しは不透明である。理由は議会共和党との不一致である。
社会保障等給付についてはオバマケアは別としてトランプ大統領は現行水準を維持、議会共和党は大幅削減、国防費についてはトランプ大統領は増額、議会共和党は一部は削減を主張するもののマッケイン上院議員など国防族は増額支持、民生についてはトランプ大統領はインフラなど強化、しかし議会共和党は減税の観点からマコーネル上院議員などはトランプ大統領の方針に否定的な発言をおこなっているように議会共和党との間でトランプ大統領の主要政策でスタンスの違いが顕在化しつつある。
エネルギー政策について歳出増に係る点について議会共和党との間の認識の乖離が大きく、協調路線を図ることができずエネルギー政策を推し進めることができなくなることも十分に考えられる。
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- ワシントン関係者聞き取り(2月7・8日)
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- 国際技術貿易アソシエイツ
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- タウシャーインターナショナル
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- 12月16日付けCNN Money