既存ダム活用の水力発電(その1)

グラハム・ベルの驚き ―エネルギーの宝庫・日本列島―


認定NPO法人 日本水フォーラム 代表理事

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グラハム・ベルの予言

 明治31年(1898年)、グラハム・ベルが来日した。発声生理学の科学者であり、教育者であったベルは、明治19年に電話の実験を成功させていた。来日したベルは日本の帝国ホテルで講演をしている。その内容は日本の未来への讃歌であった。
「日本を訪れて気がついたのは、川が多く、水資源に恵まれているということだ。この豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう。電気で自動車を動かす、蒸気機関を電気で置き換え、生産活動を電気で行うことも可能かもしれない。日本は恵まれた環境を利用して、将来さらに大きな成長を遂げる可能性がある。」
 ベルは、雨の多いアジア・モンスーン帯で、山が連なる日本列島の気象と地形を見て、水力エネルギーの宝庫であることを見抜いた。なぜなら、ベルは「地形と気象」に関して世界でも屈指の見識を持っていた。グラハム・ベルは米国ナショナル・ジオグラフィック(地理学)協会の会長であり、雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」の出版責任者であった。
 ベルは日本列島を歩き、その日本が水力電気エネルギーの宝庫であることを確信し、日本の未来の発展を明言できたのだ。

図1

太陽エネルギーの水力

 水は太陽エネルギーである。海の水が太陽で温められ、蒸発し、上空で冷やされて雨として降ってくる。
 太陽エネルギーの絶対量は膨大だが、単位面積当たりのエネルギー量は薄い。雨も単位面積当たりのエネルギー量は薄い。ところが、日本の国土の70%の山地が、その薄いエネルギーの雨を集めて濃くしてくれる。
 日本は国土の山々が、薄いエネルギーの雨を集めて濃い水流エネルギーにしてくれる。しかし、この水流エネルギーも弱点を持っている。
 その弱点とは、変動が大きいことだ。
 日本の降雨は、季節によってガラリと変わる。夏は南方から雨を、冬にはシベリア寒気団が雪を運んでくる。季節の変わり目には梅雨前線、秋雨前線が停滞する。年中、低気圧が流れ込み、秋には巨大台風も来襲する。日本の降雨は季節によって、時間によって大きく変動する。
 さらに、急峻な地形の日本の川は一気に増水し、その水はあっという間に海に戻ってしまう。日本の川の水流は使い勝手が悪いのだ。この使い勝手の悪い水流を私たちが楽に使えるようにしなければ、安定したエネルギーは得られない。
 この変動する川の水をなだめて、使い勝手の良いエネルギーにするのが、ダムである。ダムは変動する川の水を貯め、安定した一定の流量で放流する。ダムは太陽エネルギーの貯蔵庫なのだ。しかし、新しいダムを造る時代は終わった。
 日本国産の資源の水力をいかに発掘していくのか。鍵は既存のダムの最大活用なのだ。

図2

太陽エネルギーの水を貯めるダム

※ 既存ダム活用の水力発電(その2)既存ダムの最大活用へ続く

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