日本のメディアが伝えないニューヨーク州原発閉鎖の背景
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
1月10日の報道ステーションを始めとしたテレビニュース、あるいは共同通信配信記事で、米国ニューヨーク州のインディアナ・ポイント原発閉鎖が伝えられた。福島第一原発の事故の後、閉鎖を求める声が高まり閉鎖が決定されたとの主旨で報道された内容は間違いではないが、日本では報道されていないことがいくつもある。例えば、閉鎖の大きな理由には天然ガス価格下落による経済性の問題があるが、日本の報道はあまり触れていない。
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事はインディアナ・ポイント原発の閉鎖を州司法長官時代から要請していたことで知られるが、2015年に州北部の原発が天然ガス火力との価格競争が厳しくなっているとして閉鎖を発表した際には、閉鎖に反対し原発の採算性を改善するため補助金の支出を決定している。知事は原発に反対しているということではなさそうだ。
インディアナ・ポイント原発の閉鎖により同原発から電力供給を受けていたニューヨーク市の電気料金が上昇する可能性が高いとも報道されている。また、閉鎖後の電源確保の見通しがはっきりしないことから、2021年の閉鎖予定は2025年まで延期される選択肢も用意されている。
インディアナ・ポイント2号機(102万kW)は1974年に、また3号機(102.5万kW)は1975年に運転を開始している。それぞれ当初の40年の運転期間を経過し延長申請を行っているが、まだ認可されておらず現在は審査中期間として運転が認められている。インディアナ・ポイントはニューヨーク市から24マイル(約38キロメートル)、市中心部のセントラルパークから40マイル(64キロメートル)北のハドソン河沿いにあり、周辺は1平方マイル当たり2100人という米国の原発立地地点中最高の人口密集地帯になる。
クオモ知事は、万が一の場合には退避が困難として、閉鎖を要請していたが、2020年までに2号機、2021年までに3号機の操業を停止することで操業を行っているエンタージー社と州政府が合意した。エンタージー社は操業停止の理由として安全性確保のための投資の必要性と天然ガス価格の下落による電力卸料金の下落をあげている。同社によると過去10年間で電力卸料金は45%下落し、1kWh当たり2.8セント(3円)を付けることもあったとのことだ。
また、インディアナ・ポイント原発の敷地内に他社の天然ガスパイプラインが敷設されることとなり、万が一の天然ガス漏洩による爆発の際に原発施設に影響があるのではないかとの指摘が昨年あったことも、ニューヨーク州の要請を勢いづかせることになった。
クオモ知事は、インディアナ・ポイント原発の閉鎖を主張していたが、エンタージー社が、州北部のオンタリオ湖畔に保有していた1975年操業開始のジェームスAフィッツパトリック原発(84万kW)の閉鎖を2015年に発表した際には、電力供給と地元の雇用に影響があるとして、閉鎖に反対し天然ガス火力との競争力維持のために原発への補助金の支出を決定している。その後エンタージー社は、閉鎖を避けるため同原発をエクセロン社に売却した。
今回のインディアナ・ポイント原発の閉鎖により、ニューヨーク州の電力供給に影響がでる可能性も指摘されている。カナダ・ケベック州からの水力発電で100万kW、再エネで残りを賄うように2021年までに供給体制を整える計画があると言われているが、詳細は不詳だ。ニューヨーク州の電気料金は表の通りであり、全米平均を上回っている。電気料金上昇は生活と産業に大きな影響を与えるとの指摘が既になされている。
米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は、インディアナ・ポイント閉鎖予定を伝える記事のなかで、地元への影響に大きくスペースを割いている。同原発の雇用は1000名、2016年に地元・周辺自治体に支払われた額は3000万ドル(35億円)。立地するブキャナン村の予算のほぼ半分は同原発からの税金などになっている。州政府は、地元自治体と従業員の再就職支援を行うと発表しているが、地元自治体は当然閉鎖には反対ということだ。