水素社会に向けた動き加速!

再エネ由来水素システムを見学


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2016年12月号からの転載)

 水素・燃料電池関連のエネルギーフォーラムに登壇する機会をいただき、水素社会の実現に向け各地で動きが活発化していることを知りました。今回は、新しいエネルギー、水素の可能性を考えたいと思います。

川崎マリエンに設置されたH2OneTM BCP モデル=川崎市川崎区

川崎マリエンに設置されたH2OneTM BCP モデル=川崎市川崎

水素・燃料電池戦略ロードマップ

 2016年3月に改訂された政府の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」の「フェーズ1:水素利用の飛躍的拡大」(現在~)では、①燃料電池の価格低下と普及拡大、②燃料電池自動車(FCV)を2020年までに約4万台、2025年までに約20万台導入、③水素ステーションを2020年度までに160カ所、2025年度までに320カ所設置することを目指します。
 「フェーズ2:水素発電の導入など」(2020年代後半に実現)では、水素発電と大規模な水素供給システムの確立を目指し、2030 年ごろには水素発電の本格導入を見据えます。最終段階の「フェーズ3:CO2フリー水素供給システムの確立」(2040年ごろに実現)では、再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素供給システムの確立を図る計画です。
 水素は、石油随伴ガス、製鉄所や工場で発生するガス、再エネなど多様な一次エネルギー源からさまざまな方法で製造できる二次エネルギーです。再エネと水を使って水素を製造し、必要な時に燃料電池で電気に換えることもできます。水素は、電気を運びやすく、貯めやすくしてくれます。半永久的に劣化せず、大量に運べることもメリットとされます。
 エネルギー自給率がわずか6%の日本。発電電力量に占める火力発電の割合が約85%(2015年度)を占め、燃料輸入に毎年何兆円もの国富が流出しています。一方で、地球温暖化問題にも対応しなくてはいけません。厳しい環境・エネルギー制約がある日本で、水素は解決策の1つとなる可能性を秘めています。

水素ステーション整備が急務

 2014年12月、トヨタ自動車が世界に先駆けて量産型のFCV「MIRAI」を発売し、2016年3月には、ホンダが「CLARITY FUEL CELL」を市場に投入し、FCVが注目されるようになりました。

トヨタのFCV「MIRAI」

トヨタのFCV「MIRAI」

 燃料電池バスは、愛知県や東京都での実証を経て、2017年初めには市場に投入され、燃料電池のフォークリフトやごみ収集車なども市場に投入される見通しです。
 水素インフラの整備が喫緊の課題ですが、政府のロードマップでは、4大都市圏を中心に100カ所程度の水素ステーション(固定式、移動式)の確保を目指しています。2016年3月17日時点で、81カ所(再エネ由来の小型水素ステーションを含めると86カ所)が整備され、うち57カ所が開所しています。 

 水素ステーションの低コスト化については、セルフスタンドを可能にし、耐圧性に優れたホースの開発などで修繕費の低減を図るなど、知見を蓄積しているところです。すでに開所した水素ステーションでの水素価格は、目標を前倒しして、ハイブリッド車の燃料代に迫る1000~1200円/kgの戦略的な水準になっています。 
 水素ステーションの安全対策については、一般社団法人水素供給利用技術協会(HySUT)によると、「水素を漏らさない(適切な設計、材料選定、点検など)」、「漏れたら早期に検知し、拡大を防ぐ」ことが基本的な考え方です。万が一、火災などが起きても周囲に影響を及ぼさない、または影響を軽減することが重要です。 
 水素が爆発するのは、密閉空間に大量に漏れ、そこに火種があった場合です。そうでない空間や地面付近には溜まりにくく、仮に着火しても燃え広がらずに燃え尽きるため、必要なのは正しい使い方だといいます。

川崎マリエンの水素システム

 水素の地域導入事例を見学したいと思い、川崎マリエン(川崎市港湾振興会館、川崎市川崎区)を訪ねました。東芝が開発した再エネ由来水素の利活用技術「自立型水素エネルギー供給システムH2OneTM」の実証機が設置され、2015 年4月20日から運転を始めました。このモデルはBCP(事業継続計画)対策向けのエネルギー供給システムで、自治体で運転を開始した初の事例です。東芝・次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム統括部長の大田裕之氏に案内していただきました。 
 「圧力が10気圧以上の圧力になると、高圧ガス保安法の制限を受けて、置き場所が制限され、保安管理者の常駐が必要になります。H2OneTMは低圧で設計していますので、どこでも設置でき、保安管理者も不要です」 
 汎用コンテナのサイズで、外観も周辺環境に違和感のないデザインです。 
 「このシステムは、減災用のバックアップ電源として開発しました。エネルギー貯蔵技術として、蓄電池は短期間の再エネの変動を補うことは得意ですが、1日程度で放電してしまいます。水素は、エネルギー密度が高く、長期間、コスト的にも安く貯めることができます。H2OneTMは蓄電池と純水素燃料電池のシステムを搭載し、2つの特性をうまく補完しています」 
 災害でライフラインが寸断され、川崎市臨海部で帰宅難民が発生した場合に備えて、H2OneTMは約300人の避難者に電気と温水シャワーを供給できます。

H2OneTMの水素貯蔵タン

H2OneTMの水素貯蔵タン

H2OneTMの車載モデル

H2OneTMの車載モデル

燃料電池フォークリフト

燃料電池フォークリフト

――今後の展開は? 
 「年間を通じて再エネに依存して暮らしているところは世界中にあります。H2OneTMは太陽光など再エネだけで電気と温水を供給でき、またシステムの仕様は規模や要望に合わせて変更できます。国内での展開にとどまらず、海外の無電化地域、東南アジア、インド、太平洋の島嶼国、エネルギー資源が乏しい地域、送電網の整備が乏しいコミュニティへの展開を考えています」 
 これからは、いつ、どこにいてもエネルギーを安定供給できる分散型エネルギー設備を各地に整備していくことが重要です。日本では再エネの導入が拡大していく中、系統連系などの問題が生じており、余剰電力を水素で貯める技術が、有望な対応策の1つになるかもしれません。もしもの時、私たちの生活を支えてくれる可能性がある水素。安全対策を万全に、各地での利活用が期待されています。