資本の論理から気候変動読み解く
書評:マッケンジー・ファンク著
地球を「売り物」にする人たち―異常気象がもたらす不都合な「現実」
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2016年10月21日付)
「気候変動で金持ちになろうと目論む人を訪ねて世界中へ」とある通り、本書は気候変動による影響、すなわち氷床の融解や干ばつ、洪水といった影響にしたたかに「適応」している事例を世界中からリポートしたものである。
極北の融解による北極航路の展開を歓迎するロシア、氷の下の石油に期待するオイルメジャーやその富によって独立を目指すグリーンランド、干ばつで多発する火災により拡大する民間消防事業など世界の至るところで「気候変動で金持ちになろうとする目論見」が展開する。というよりも現実社会は気候変動による影響を所与の条件と認識し「適応」しているのだ。本書の真の問題意識は、気候変動の恩恵は歴史的に温室効果ガスを排出してきた地域を中心にもたらされる上、恩恵を受ける側の人間は被害を受けている側の犠牲に目をつぶり、格差拡大に加担することにあるのだろう。原題「Windfall(棚ぼた利益)」が著者の認識の象徴と言える。
正直に言えば、本書は問題意識を絞り切れておらず、主張と事例がかみ合わないケースや、主張が明確ではない場合も多く見受けられる。その原因の一つは「人間の行動を気候にまつわるたった一つの原因に帰するのは難しい」ことにあるだろう。気候変動問題は、世界が直面する多くの課題の中の一つでしかない、ということだ。
このタイミングで本書を紹介したいと考えた理由は、わが国における気候変動に関する議論が過度にナイーブであると常々感じていることにある。例えば最近、金融市場のグリーン化が強くうたわれるようになったが、それは「気候変動を解決しよう」とする動きではなく、金融業界にとって気候変動が新たなリスクあるいはチャンスとしてどう作用するかを見極める動きであることも理解しておく必要がある、と私自身は考えている。
それを「人の不幸でもうけるのは腹黒い」と批判しても意味がないし、すべてがそうだという訳でもない。ただそういうものだと理解した上で対応しなければならないのだ。純粋過ぎても、懐疑的になり過ぎても気候変動の世界を理解することは難しい。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
地球を「売り物」にする人たち―異常気象がもたらす不都合な「現実」
著者:マッケンジー・ファンク (出版社:ダイヤモンド社)
ISBN-10: 4478028931
ISBN-13: 978-4478028933