パリ協定の批准と1.5℃シナリオ(その1)


中部交通研究所 主席研究員

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3.2 1.5℃シナリオの例

 IPCC第5次報告書に用いられたシナリオのうち、2℃シナリオの下限近くのものは、 <1.5℃に抑える1.5℃シナリオとして、高い確率(>66%)ではだめだが、50%以上の確率であれば温度上昇を保証できる。最近、IIASAのRogeljらは、これらのシナリオと既報の1.5℃シナリオとを合わせて分析をして、1.5℃シナリオを不完全ながらその実態を2℃シナリオとの対比で示そうとした[5,6]。これ以外にも、SEI(Stockholm Environment Institute)[7]、SLoCaT(Partnership on Sustainable, Low Carbon Transport)[8]、CAT (Climate Action Tracker) [9]、 UNEP のGAP報告書[10]、 RITE[3]が1.5℃シナリオを紹介、また、1.5℃シナリオ下での残存排出可能CO2量に関して、 SEI[7]、IPCC–AR5のWG1の報告書[11]にも記載がある。
 1.5℃シナリオの分析例は、未だ少なく、より信頼性のある絶対値の議論にはまだ時間を要する状況であり、以下、いくつか例を示すが、絶対値に注目するのでなく、2℃シナリオとの相対的な差という視点で見てもらいたい。図3はRogeljら[5]がAR5のデータを再分析したもので、報告書の2100年時点でのGHG濃度が480ppm以下になるシナリオから1.5℃シナリオ(紺色の帯)を抽出している。そのすぐ上の青色の1.5–2℃シナリオとの差をみれば、1.5℃シンリオで必要とされる急激なGHG削減の様子が理解できる。1.5–2℃シナリオでは、図に示すように2010年比で2050年に約50%減の削減になっているが、1.5℃シナリオでは75%減が必要で、2060–2080年にゼロ排出になっている。また、現在すでに気候変動枠組み条約事務局に提出されている各国の削減目標であるINDCの総合的な効果の範囲が図中に2025、2030年の位置に縦のオレンジ色の棒で示されており、もし、この排出パスを取ったとすれば、<2℃の目標を達成するには、オレンジ色の帯に沿った排出に抑制する必要があることが示されている。この際のGHG削減の速度は2030–2050年の平均で2.3%/年と過去の実績で記録された特定の国の最高レベルの削減が全世界全体で必要とされる。

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 Rogeljら[5,6]は、1.5℃シナリオと2℃シナリオの対比より、以下の結論を導いている。1.5℃シナリオは、エネルギーシステムの転換の点では、2℃シナリオと同じで、必要とされる技術も特に差はない。ただ、削減の焦点はより消費側(省エネ)に移る。しかし、削減活動のより急速なスケールアップが必要で、当然、ゼロ排出になる時期も10–20年、早まる。カーボンバジェット(残留の排出可能CO2排出量)に関しては、2℃シナリオでは、現状の排出速度が続けば、ほぼ30年ほどで使い切るが、1.5℃シナリオでは、10数年と半減し、現状のINDCの状況からは、削減達成のwindowが閉じるのは時間の問題である。

(その2)に続く

<参考文献>

1.
UNFCCC-HP: The Paris Agreement;http://unfccc.int/paris_agreement/items/9485.php
2.
Paris Agreement – Status of Ratification;http://unfccc.int/paris_agreement/items/9444.php
3.
RITE(2016) 1.5℃目標に関する分析・評価:
http://www.rite.or.jp/system/global-warming-ouyou/download-data/Analyses_15target.pdf
4.
M. Schaeffer et al.(2008), PNAS, 105(52), 20621-20626
5.
J. Rogelj et al.(2016), Nature, 534, 631-639
6.
J. Rogelj et al.(2015), Environ. Res. Lett., 10, 105007
7.
SEI(Stockholm Environment Institute)Discussion Brief (2013); The Three Salient Global Mitigation
Pathways Assessed in Light of the IPCC Carbon Budgets
8.
SLoCaT(Partnership on Sustainable, Low Carbon Transport):
http://ppmc-cop21.org/wp-content/uploads/2015/12/COP21-Final-Premiminary-Report-SLoCaT.pdf
9.
CAT(Climate Action Tracker) Briefings (2015); How close are INDCs to 2 and 1.5 °C pathways?
10.
UNEP(2015); The Emissions Gap Report 2015
11.
IPCC–WG1 第5次報告書(2013)

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