第7回 さらなる技術開発で天然ガスシフトをリードする〈前編〉

一般社団法人日本ガス協会 環境部長 前田 泰史氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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パリ協定と地球温暖化対策計画の評価

――COP21のパリ協定の合意を受けて、業界としての評価は?

前田 泰史氏(以下、敬称略):全般的には評価しています。ポイントとしては2つ挙げられますが、1つは初めて途上国を含む全ての国が参加する形で合意ができたことです。

前田 泰史氏

前田 泰史(まえだ・やすし)氏

平成元年3月 大阪大学大学院工学研究科電子工学専攻修了
平成元年4月 大阪ガス入社
平成18年6月 同 大阪エネルギー営業部 マネジャー
平成21年4月 同 エネルギー開発部 マネジャー
平成24年4月 同 エネルギー技術研究所 マネジャー
平成27年4月 一般社団法人日本ガス協会 環境部長

 締結された内容には、まだ先進国・途上国の差はありますが、まずは第一歩を踏み出せたことが一番大きいと言えます。2つ目のポイントは、我が国の2030年の目標が定まり、ガス業界を含む産業界が経団連の枠組みで進めてきた低炭素社会実行計画の削減の取り組みを認めて頂いたことです。

 2030年に向けて2013年比26%排出削減の目標自体は決してラクなものではありません。京都議定書の1990年比6%削減に比べてもはるかに厳しい目標です。しかし、日本政府や産業界など関係者が知恵を出し合って、様々な対策を積み上げた実現可能性のある内容になったと思います。

――政府が5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」についての評価は?

前田:政府の地球温暖化対策計画は、長期エネルギー需給見通しをベースに、それぞれの業界・業種でしっかりと対策を検討して積み上げたものとなっています。都市ガス関係ですと、コージェネレーション(熱電併給)や燃料電池、ガスボイラー、工業炉、天然ガス自動車、それから社会全体の流れとして、「天然ガスシフト」について盛り込まれており、天然ガスの利用拡大がCO2削減に大きく貢献できるという中身になっています。我々としても業界をあげて、天然ガスの利用拡大を通じてCO2削減に貢献できると考えています。

ガス業界の温暖化対策の柱

――今後の温暖化対策の具体的な取り組みは?

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前田:都市ガス事業は、国土の6%にあたる都市部を中心とする約3000万軒のお客様に、203事業者が370億m3の都市ガスを供給しています。販売量で見ると、以前は家庭用が中心でしたが、現在は産業用や業務用の需要が非常に増えており、産業用が全体の需要の半分を占めています。また、大手4社(東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガス)が販売量の約4分の3を占めており、様々な規模の事業者から構成されることも特徴の一つです。

 我々の温暖化対策の柱の一つは、都市ガスの製造工程におけるCO2を大幅に削減することです。以前は石炭や石油系から都市ガスを製造していましたが、現在は環境性に優れるLNG(液化天然ガス)への原料転換を行い、都市ガスの製造効率を向上させると共に、製造工場にコージェネレーション(熱電併給設備)や-162℃というLNGの冷熱を有効利用した冷熱発電設備などを導入することにより、CO2の大幅な削減を図っています。

 原料転換による製造プロセスでのCO2削減についてもう少し説明しますと、都市ガスは、1872年に石炭を原料としたガスで供給開始し、その後、原料として石油等を加えてきましたが、環境性の向上を図るため、1969年にこれらの原料からLNGへの原料転換を開始しました。その後40年の歳月をかけて、延べ1兆円以上の資金を投じ、2012年度までに208事業者がLNGへの原料転換を完了しています。石炭から都市ガスの製造効率は70%程度でしたが、現在は天然ガス原料を使うことにより、製造効率99%以上と非常に効率の高い都市ガスをお客様に提供しています。

 都市ガスの製造プロセスは、海外からLNG船で運ばれた燃料をLNGタンクへ貯蔵し、LNGを気化して、その後LPG(液化石油ガス)で熱量を調整して、臭いを付けて供給する流れになっています。このプロセスの中では、ポンプや圧縮機を導入しており、電気を多く使用するため、冷熱発電やコージェネレーションの導入や、様々な設備の高効率化、運転の効率化を進めてCO2の削減努力を続けています。

 例えば、LNG気化器には主に2つの方式があります。一つは海水を使って気化をする「海水式気化器(オープンラックベーパライザー)」ですが、単純に海水をLNGにかけて、海水の熱で気化させる方式です。一方、「(燃焼式)サブマージドベーパライザー」は、バーナーでガスを燃やして暖めた温水でLNGを気化させる方式です。日本では、エネルギー使用量とCO2排出量が少ない海水式が主流ですが、海外では燃焼式で気化するところが約半数ですので、海外と比較しても省エネ・低炭素な方式を採用していると言えます。

――都市ガス製造に係わるCO2排出の実際の削減量は?

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前田:都市ガス製造に関わるCO2目標と実績の推移のグラフを見ていただきたいと思います。目標は2つありますが、メインの目標が都市ガスの製造にかかるCO2の原単位になります。グラフの赤のラインが1m3の都市ガスを作るのに、どれだけCO2が製造工場で排出されたかです。基準年の90年が87.2に対して、現在は8前後ですので、9割以上の削減を実現したことになります。これはLNGへの原料転換を中心に、過去に非常に大きな削減をしてきたわけです。(図1)

 グラフの緑のラインが製造量ですが、コージェネレーションの普及や天然ガスへのシフトが進むことによって、製造量は増えていく見通しです。それに伴い、製造工場からの都市ガス送出圧力の上昇等によりCO2の原単位は、2020年に向かって微増することになります。今後の課題は、更に省エネ対策を推進することにより、この微増を抑えることが重要だと考えています。他方、製造工場でのCO2は微増する見通しですが、お客様先では、コージェネレーションや天然ガスを使ったシステムを導入することにより、製造工場のCO2増加量の100倍以上となる最大6200万t超のCO2を削減できると考えています。日本全体で見ると、天然ガスをよりたくさん使って頂くことによりCO2の削減に大きく貢献できると考えています。(図2)

図1(図1)都市ガス製造に係わるCO2目標と実績推移
出典:日本ガス協会
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図2(図2)都市ガス消費段階(お客さま先)でのCO2削減への貢献
出典:日本ガス協会
※グラフの青のラインが製造工場でのCO2の排出量、赤のラインがお客様の先でのCO2の削減
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――熱需要の天然ガス転換により、今後省エネが進むことが期待できますね。

前田:産業用を中心とした熱需要の天然ガス転換は、「A重油と従来バーナー」を「天然ガス化」し、さらに「バーナーの高効率化」を図ることで大幅なCO2削減ができます。重油から天然ガス化をするだけで25%のCO2を削減できますが、国の助成を頂きながら、メーカー様や都市ガス会社が技術開発してきたリジェネレーティブ・バーナーを導入すると、さらにCO2削減が可能です。これは、燃焼した後の排ガス中に含まれる熱を回収して、再利用するというシステムですが、従来に比べて55%のCO2削減が期待できます。(図3)

図3(図3)熱需要の天然ガス転換と高度利用 出典:日本ガス協会[拡大画像表示]

燃料電池の開発状況

――産業用・業務用の燃料電池の開発状況は?

前田:三浦工業、富士電機、日立造船、三菱日立パワーシステムズ、京セラなどのメーカー様が中心となり、工場、飲食店、病院などを対象に、業務用・産業用の燃料電池の技術開発が進められている状況です。(図4)

図4(図4)業務・産業用燃料電池の開発・実用化の動き
出典:日本ガス協会
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 歴史を振り返ると、時代の変遷の中で、メーカー様と共に、新しい技術と商品の開発を進め、需要を開拓してきました。都市ガスの本格的な利用は、ガス灯が始まりですが、それが電灯に駆逐された後、厨房分野では、かまどのバーナーから始まったものがコンロに代わり、給湯分野では、風呂釜のバーナーから始まったものが給湯器に代わっていきました。
 燃料電池についても、仕様の検討に加え、材料開発、シミュレーション、評価試験等により、どんな材料や構造にすれば耐久性や性能が上がるのか、メーカー様任せではなくガス業界も自ら汗をかいて取り組んでいるのが我々のDNAとも言えます。

後編に続く)

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