二国間クレジット制度(JCM)はどんな制度?
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
経済産業省/NEDOによるJCM実証事業等
JCMプロジェクトの形成のため、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による実証事業や経済産業省/NEDOによる実現可能性調査(FS:(feasibility study)を実施しています。(図4)平成28年度のJCM実証事業(NEDO)の予算は約24億円ですが、低炭素技術や製品の省エネ効果などの有効性を実証し、本制度の本格的な運用に向けた課題の抽出やフィードバックを行うことを目的としています。一方、JCM実現可能性調査(経済産業省/NEDO)は、JCMプロジェクト化に向けて、「排出削減プロジェクトの発掘・組成」や「同プロジェクトによる排出削減量の評価方法の構築・適用」、「相手国政府に対する政策提言の実施」を目的としています。
環境省によるJCM資金支援事業等
環境省では、2016年6月27日時点で、パートナー国のうち15カ国で「環境省JCM資金支援事業」77件が実施されています。(図5)
図5 環境省JCM資金支援事業の分野別内訳 環境省資料を基に筆者作成
※国別では、インドネシア23件、ベトナム13件、タイ10件、バングラデシュ6件、カンボジアとモンゴルが各4件、ミャンマー、ケニア、パラオが各3件、コスタリカとモルディブが各2件、マレーシア、ラオス、サウジアラビア、エチオピア、メキシコが各1件。
77件のJCM事業の割合を図5に示しましたが、その内訳は次の通りです。
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- 再生可能エネルギー発電23件:太陽光発電19件、小水力2件、廃熱回収発電2件
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- 省エネ(空調、冷凍・冷蔵)18件:空調14件、冷凍・冷蔵4件
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- 省エネ(生産設備)21件:織機4件、工業炉3件、蒸気ボイラ3件、電解槽3件、生産ライン1件、省エネ設備3件、LED照明2件、ポンプ1件、温水器1件
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- 省エネ(インフラ)7件:送電線変圧器2件、LED街路灯2件、暖房用ボイラ1件、スマートグリッド1件、排水処理1件
今年5月13日に、環境省はJCMの開始以降初めてJCMクレジットを発行したことを発表しました。日本とインドネシア間のJCMとして登録されている2件の冷凍設備等の省エネプロジェクトについて、合同委員会で決定されたクレジット発行量は2件のプロジェクト合わせて40トン、そのうち31トンを日本で発行しました。なお、2件のプロジェクトはいずれも「環境省JCM設備補助事業」の採択案件ですが、同事業では補助対象者に対して初期投資費用の1/2以下を補助し、発行されたクレジット量のうち1/2以上を日本政府に納入することになっており、日本政府として27トンのクレジットを獲得しています。
日本の約束草案におけるJCMの国際貢献
2020年以降の温室効果ガス削減に向けた日本の約束草案は、2030年度に2013年度比26.0%削減(2005年度比 25.4%削減)の水準(約10億4,200万 t-CO2)となっています。JCM事業については、民間ベースの事業による貢献分とは別に、毎年度の予算の範囲内で行う日本政府の事業により 2030年度までの累積で5,000万から1億t-CO2の国際的な排出削減・吸収量が見込まれています。
今年6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」における「環境・エネルギー制約の克服と投資の拡大」の施策では、政府は今年度中に、5カ国以上で「JCM都市間連携事業」を展開し、パートナー国の拡大や案件形成の支援に取り組む予定です。(図6)民間ベースの事業についても、日本企業の貢献を明示した上で、相手国の合意が得られた場合には、原則としてJCMにしていく予定です。政府は、民間活力を最大限活かしながら、JCMを通じた低炭素技術の海外展開を、2020年度までの累積で1兆円の事業規模にすることを目指しています。
低炭素技術の導入を途上国が強く意識するようになったのは比較的最近のことだといわれていますが、今後、JCMを通じた途上国での低炭素技術が削減効果を少しずつ積み上げていくことが期待されます。低炭素・省エネ技術を移転することにより、グローバルな貢献を図っていくことは日本の重要な役割であり、JCMを通じた環境技術の海外展開は今後さらに加速していくと思われます。