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ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第14回

日本ではどうなりそうか


Policy study group for electric power industry reform


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<小売電気事業者にピーク供給力を確保するインセンティブはない>

 このような状況下では、小売電気事業者に、ピーク需要を賄うための供給力を、自ら保有したり、長期契約で確保するインセンティブは働かない。kWh市場から購入する方が安価だからである。そして、kWh市場からピーク供給力を購入する小売電気事業者は、供給力の固定費を十分負担していない、あるいは、誰かが負担している固定費にただ乗りをしていることになる。ただ乗りされ続けることは誰も望まないから、この状態が継続するなら、誰もピーク供給力の固定費を負担しなくなる。

<供給能力確保義務は歯止めにならない>

 2016年4月施行の第二段階の改正電気事業法は、第2条の12で小売電気事業者の「供給能力確保義務」を規定している。

第2条の12 小売電気事業者は、正当な理由がある場合を除き、その小売供給の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保しなければならない。
2  経済産業大臣は、小売電気事業者がその小売供給の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保していないため、電気の使用者の利益を阻害し、又は阻害するおそれがあると認めるときは、小売電気事業者に対し、当該電気の需要に応ずるために必要な供給能力の確保その他の必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

 供給能力確保義務は、改正前の電気事業法第18条に規定する「供給義務」とは異なる。すなわち、供給義務は、担当するエリア(例えば、東京電力の場合は関東一円)の一般の電力需要に、正当な理由がない限り応じる義務を課す。そのため、供給義務を課された事業者は、担当エリアの電力需要を予測し、電力供給に必要な供給力を確保する。その費用は、規制料金にて回収が担保される。

 対して、供給能力確保義務の下では次のようになる。

小売電気事業者は、確保できた供給能力の範囲で事業を行う自由がある。したがって、全体として必要な供給能力は担保されない。
小売電気事業者は、供給能力確保義務を果たすにあたって、自ら電源を確保する必要はなく、卸電力市場に依存することが可能である。したがって、他の誰かが費用を負担して、全体として必要な供給能力が確保されていれば、義務を果たすのは容易である。これは、誰かが負担している固定費にただ乗りをしていることに他ならない。

 つまり、供給能力確保義務は、ただ乗りの歯止めにはならない。2016年4月以降、ピーク需要を賄う電源の中で、ただ乗りにより採算が悪化し、閉鎖せざるを得なくなるものが出てくることが想定される。そして、閉鎖によって需要と供給のバランスを確保することが難しくなると広域機関が判断すれば、電源入札が発動される。電源入札でとられる供給力確保手段の選択肢は、前に掲げたとおり、「a)電源の新増設」、「b)休止又は廃止電源の再起動」、「c)既存発電設備の維持」の3種類であるが、ピーク電源として活用される電源は、多くの場合、経年化し、限界費用が高くても固定費負担の軽い電源であることが実態であるので、a)はあまり想定されない。b)又はc)が適用されるケースが多くなるのではないだろうか。

 ちなみに、広域機関による電源入札も、容量メカニズムの一種と捉えることができる。一部の電源にkW価値の支払いを限定するので、「selectiveな容量メカニズム」である。第4回で紹介した戦略的予備力、第10回で紹介したドイツで導入予定の容量予備力は、selectiveな容量メカニズムの例である。いずれも、kWh市場においてミッシングマネーが発生しないことを前提とする仕組みである。対して、広域機関による電源入札は、ミッシングマネー発生を想定し、その解決策として導入される点で、前2者とは異なるものである。

執筆:東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

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