COP21パリ会議を振り返って

交渉結果のポイントと今後の展望


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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今後の展望

 わが国に求められる対応を整理したい。
 国際交渉上は、パリ合意はまだスタート地点であるとの認識を共有し、今後協定が適切に実行されるよう、データ収集に関するノウハウやPDCA(計画・実行・評価・改善)プロセスの運用などについて積極的に知見を提供していくことが期待される。プレッジ&レビューの概念の提唱にとどまらず、制度設計に具体的なノウハウを提供し、データの正確性が危ぶまれる中国を含めた各国の理解を求めていくことは、産業界の自主的取り組みによって知見を蓄積したわが国ならではの貢献である。
 そして、日本に求められる貢献はやはり革新的技術開発を先導することだろう。国際的には「ミッション・イノベーション」(5年間でクリーンエネルギーの研究開発に係る予算の倍増を目指す有志国政府と、同分野への投資を拡大する民間投資家有志によるイニシアティブ)への参加を表明し、国内的には2050 年に向けた「エネルギー・環境イノベーション戦略」を策定し、有望分野を特定して技術開発に注力していくことが打ち出されている。
 この方向性に異存はないし、知的財産権の扱いに関するルール策定なども含めて、わが国が積極的に貢献することを期待したい。しかし、技術の担い手はあくまで企業であり、企業が研究開発に継続的かつ積極的な投資を行える良好な経済状況を確保することが重要であると認識すべきだ。マクロ経済を良好に保つこと、加えて、研究開発投資に関する減税措置などで、ビジネスの現場でその感覚を活かした技術開発が行われるよう政府の支援を期待したい。
 既存技術をいかに普及させるかについては、JCM(二国間クレジット制度)の制度設計が肝となる。パリ協定では、JCMを含めた市場メカニズムが否定されずに生き残った。しかし、今後すべての国が目標を掲げるからには、日本の技術を導入して削減したのは自国の努力であるという主張が相手国からなされることも想像される。JCMが、合理的かつ実効性ある気候変動対策として、また日本の技術普及策として機能するには、前途多難と言えよう。
 国内対策についてはすでに議論が始まっている。2015年12月22日には、安倍首相も出席して地球温暖化対策推進本部が開催され、同じ日に、筆者も参加する中央環境審議会・産業構造審議会の下に設置された委員会の合同会合が開催された。COP21直後とあって議論百出だったが、印象的だったのは、「2050年に80%削減」をわが国の長期目標として提示するべきといった議論や、目標達成の手段として国内排出量取引制度も検討すべきといった論点である。
 前者については、目標として位置づけても現在の技術ではそれを達成する計画を策定することは現実的に不可能である。高い目標を掲げることによる政府のメッセージ発信以上の意義がないのであれば、どのようにすれば革新的技術開発を促すことができるかといった本質的議論にこそ注力すべきだろう。
 後者の排出量取引は、まず排出枠を設定し、その枠に対する過不足分について取引を認めるという制度である。取引の対象となる有価物を発生させるからには、設定する排出枠に法的拘束性が必要となるが、そもそも国際枠組みが目標の達成に法的拘束性を与えていないことは先述した通りだ。
 また、EU-ETSの事例をみても、政府が排出枠の設定を適正に行うことが可能だとは考え難い。当初は「たなぼた利益」などを産業界にもたらしたうえに、今は壊滅的低価格が続いている状況だ。排出枠の価格がある程度上がらなければ低炭素技術の選択は進まないが、そうなれば短期的にはエネルギーコストをあげることになり、温暖化対策に必要な長期の技術開発は停滞してしまうし、企業の行動原理としては、成長のチャンスを海外に求めることになる。日本はその技術力で世界の削減に貢献していくべきであり、国内対策の強化が国際的視野での削減につながるかを考えるべきであろう。
 わが国は、2030年に2013年比で26%削減という目標の前提とした施策やエネルギーミックスを実現することに努力を傾注すべきだ。気候変動問題に熱心な人ほど、目標を掲げる議論に全精力を費やすように見えるが、重要なのはどう実現していくかである。

丸川環境相がホストを務めたJCM 署名国会合

丸川環境相がホストを務めたJCM署名国会合

COPを終えて

 毎年COPを終えると感じることであるが、国連気候変動交渉の内容はほとんどと言ってよいほど国民に理解されていない。今回も「パリ協定がまとまった。すわ、日本はさらに高みを目指して」という短絡的な報道や議論が多い。政府は、COP21で何が決まり、わが国はどのような貢献を目指すのか、説明を重ねていく必要があるだろう。
 特に長期的な解決策として必要なのは革新的技術開発であり、そこに日本が貢献していく方針であるという政府のメッセージを伝えてほしい。政府の明確なメッセージと良好な経済環境があって初めて、技術の担い手たる企業が継続的に技術開発に取り組むことが可能になる。
 企業側も、技術開発に向けた政府の支援策やJCMを含めた市場メカニズムの制度設計に対して、積極的に提案していくことが求められる。政府と産業界、国民が協調的に取り組まなければ気候変動問題の解決は望めない。
 わが国の2030年目標は、省エネ・再生可能エネルギー・原子力のいずれをとっても達成が非常に困難なほど高く設定されたエネルギーミックスをもとに算出されたものだ。その中で最も厳しいのが原子力の割合を維持することだろう。現在のエネルギー基本計画は原子力発電所の新設・リプレースについてはなんら触れていないが、次期計画ではこの議論から逃げることは許されない。見直しに向けて残された時間は、わずか1年ほどしかない。わが国のエネルギー政策立て直しに向けた正念場が始まる。

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