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COP21パリ会議を振り返って

交渉結果のポイントと今後の展望


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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 もう1つ大きな成果として取り上げられるのは、この協定の目的に、「産業革命以前からの温度上昇を2℃より十分下方にとどめ、1.5℃以内にとどめるよう努力を求める」という温度目標が条約上初めて明記されたことだろう。いわゆる2℃目標は政治的に浮上し定着したものだが、今回、努力目標とはいえ条文に書き込まれ、かつさらに高い1.5℃という言葉も登場した。
 会場に詰めかけた環境NGOはこれを熱狂的に歓迎したが、これを成果と評価してよいのかどうか、筆者にはまだ判断できない。
 というのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書では、2℃目標達成のための450ppmシナリオ(温室効果ガス濃度)では、2050年までにゼロ/低排出電力(再エネ・原子力・CCS 付き火力、バイオマスCCS)の割合が80% を上回り、2100年にはほぼ100%にすることが必要とされている。CCS(二酸化炭素の回収・貯留技術)あるいはバイオマスCCSを活用してシナリオ上のつじつまは合わせられたとしても、とても現実的であるとは思えない。
 北海道・苫小牧で行われているCCSの実証実験は年間10万トンの圧入を目指している。わが国の排出する温室効果ガス約14億トンをゼロにするには、この10倍の規模の貯留層を全国1400カ所に常時確保しなければならないのだ。これをさらに1.5℃目標に近づけるとなれば、その非現実性は一層強まる。
 努力目標とはいえ、今後の国際交渉で1.5℃目標と現実のかい離が指摘され、途上国の対策が進まないのは先進国の支援不足が原因との議論につながっていく可能性もある。温暖化に脆弱な島しょ国への配慮として挿入された非現実的なまでに高い目標が、今後の温暖化交渉の足かせになることを懸念してしまうのは、取り越し苦労が過ぎるであろうか。
 それよりも筆者は、技術の条文にテクノロジーの重要性が書かれたことの方が大きな意義だと考える。2℃目標、あるいは、わが国の第四次環境基本計画のように「2050年に温室効果ガス80%削減」といった高い目標、ビジョンを掲げることは、メッセージとしての意義はある。しかしそれを達成するためには現在の技術では不可能であり、革新的技術の開発がカギであることは自明だ。
 京都議定書の最大の欠点は、技術の観点が抜け落ちていたことだった。パリ協定の条文でテクノロジーの重要性が謳われたことは、京都議定書のように削減量を割り当てても温室効果ガスの削減にはつながらないという現実を世界が認識した証といえよう。わが国も技術に集中的に貢献していくべきだと考える。

各国産業界との意見交換

 COP期間中、筆者は各国の産業界との情報共有に力を注いだ。各国の温暖化対策が実効性を持つかどうかは、その国の産業界がどう動くかに大きく左右されるからだ。その中で印象的だったのが、米国とインドである。
 サイドイベントに登壇した米国商工会議所21世紀エネルギー研究所のスティーブン・ユール副所長は、米国の約束草案の根拠を問われ、「それはブラックボックスの中」、「政府と産業界はこの目標に関してNo consultation(協議していない)。2025年までに2005 年比26-28%削減という米国の目標の4割は根拠不明」と発言した。
 COP直後に行われた世論調査を見ても、米政権が最優先で取り組むべき課題に気候変動を挙げたのはわずか7%にとどまっており、少なくともオバマ政権の温暖化対策は国民・産業界の支持を受けているとは言い難いことがわかる。

米国の約束草案について語る米国商工会議所21世紀エネルギー研究所の スティーブン・ユール副所長(右から2番目)

米国の約束草案について語る米国商工会議所21世紀エネルギー研究所の
スティーブン・ユール副所長(右から2番目)

インド工業連盟(CII )メンバーとの意見交換会

インド工業連盟(CII)メンバーとの意見交換会

 米上院の多数を占める共和党議員からは「切れもしない手形を切った」とオバマ政権の対応を酷評する声もある。しかし、次期大統領にもしヒラリー・クリントン候補が就任することになれば、米国のリーダーが気候変動に前向きである状況は続くだろう。その場合、産業界はどう動くのか、世論の動向とあわせて注目する必要がある。

食の国フランスでは、COP会場には珍しく食事が充実していた。 COPのシンボルマークを模したミルフィーユケーキ

食の国フランスでは、COP会場には珍しく食事が充実していた。
COPのシンボルマークを模したミルフィーユケーキ

 また、インド産業界とのディスカッションでは、石炭について非常に現実的な意見を聞いた。「主要先進工業国の中で石炭を使っていない国はあるのか」、「石炭を使うなと言うべきではない。効率的に使えと言うべきだ」。化石燃料にかかわる投資引き揚げや融資削減を意味する「ダイベストメント」の動きは欧米を中心に急速に広まりつつあるが、一方でインド産業界関係者は、石炭を使って発展し、インドがあとに続く途上国にとって有望な市場になるという強い決意を示した。
 インドは先進国からの援助を前提に太陽光発電を積極的に導入することも明らかにしているが、一方で2020年の石炭火力発電による発電電力量が現在の2倍に増加するとの見通しもある。脱石炭が世界的な潮流とも言われるが、新興国・途上国の現実も踏まえる必要があることを改めて教えられた。

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