ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第12回
もう一つのプライススパイク発現策 運転予備力需要曲線(ORDC)
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
これまで繰り返し述べてきたが、ミッシングマネーを解消する方策には二つの考え方がある。 1) comprehensiveな容量メカニズムを導入する考え方と 2) 特定の時間帯に発現するプライススパイクに期待する考え方である。これから説明する運転予備力需要曲線(Operating Reserve Demand Curve:ORDC)は、プライススパイクを発現させる方法の一つである。通常、プライススパイクが発現するには、市場に参加している誰かが電源の限界費用を大きく超える価格で市場に入札する必要があるが、ORDCは、あらかじめ定めたルールに基づいて、「需給がタイトな時における電気の希少性(Scarcity)」を反映した価値を算定し、その価値を用いてkWh価格等を調整する仕組みである。つまり、市場参加者の入札行動や入札価格とは無関係にプライススパイクが発現するところが特徴である。
<ORDCとは何か>
ORDCは、2014年から米国のテキサス州で導入されている(厳密には、同州の面積の75%をカバーしているテキサス電力信頼度協議会(The Electric Reliability Council of Texas:ERCOT)のエリアであるので、以下は「ERCOT」と記す)。ERCOTは、PJM等、米国北東部のRTO/ISOと異なり、comprehensiveな容量メカニズムを導入していないが、2010年代になって電源不足が懸念される状況となり、対策が検討された。comprehensiveな容量メカニズムも俎上に上ったが、議論の末、ORDCが採用された。なお、議論の過程においてORDCを強く支持したのは、ハーバード大学のホーガン教授(Prof. William W. Hogan)であった。
ORDCは、あらかじめ定めたルールに基づいて、需給がタイトな時における電気の希少性(Scarcity)を反映した価値を算定し、それを約定価格に加算する。そして、加算額(Price Adder)は、次の式で算定される。
Price Adder=VOLL×LOLP ここで;
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- VOLL(Value of Lost Load)は、強制的な停電に伴う機会損失であり、あらかじめルールにより定める。ERCOTでは、9ドル/kWhを採用している。
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- LOLP(Loss of Load Probability)は、事故等により停電が発生する確率である。確保している予備力(又は予備率)Rの関数になる注46) 。つまり、LOLP=LOLP(R)である。Rが減少すれば、LOLPは大きくなる。Rが増加すれば、LOLPは完全にゼロになることはないが、限りなくゼロに近づく。
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- Rminは、電力供給を維持する上で最低限必要な予備力(又は予備率)である。これを下回ると、系統運用者(TSO)は強制的な負荷抑制(つまり停電)に踏み切る。ERCOTでは、Rminを200万kWとしている。ちなみにERCOTの2015年の夏季最大電力は、6,962万kWである。
つまり、VOLL×LOLP(R)は、予備力の確保量がRのときの停電による機会損失の期待値である。
図26は、加算額のイメージである。VOLLはあらかじめルールで定める定数であり、LOLPは予備力Rの関数で、Rが小さくなるほど大きくなる。したがって、加算額も予備力Rが減少するにつれて大きくなる。予備力がRmin以下になると、TSOは強制的な負荷抑制を実施するが、このときの加算額はVOLLに等しくなる。つまり、LOLP(Rmin)=1である。
この加算額はリアルタイムのkWh市場価格に対して加算されるとともに、発電をしていなくても、この時間帯にTSOの指示により待機していた予備力(電源又はデマンドレスポンス(DR))に対しても支払われる。また、運転予備力需要曲線の呼称のとおり、ORDCは運転予備力の価格を示すものでもある。待機することにより生じた機会損失を補う意味合いである。
- 注46)
- Rをどの時点の予備力とするかも論点であり、ERCOTでは5分前時点のものとしている。筆者は実績とすることも一案と思料する。