総論 ―再生可能エネルギー 普及政策を問う―
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
2)コストダウン・技術開発に寄与していない
FIT導入の本来目的は、再生可能エネルギーが自律的に拡大していくことへの道筋をつけることであったはずだ。学習効果によって、より効率的な生産方法が可能になり,再生可能エネルギーのコスト低減につながることが期待されていた。
しかし、総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会の第4回会合に提出された野村浩二慶応義塾大学産業研究所准教授の資料によれば、「FIT導入(2012年Q3)以降、価格下落率は加速するのではなく鈍化」したことが指摘されている。
また、第12回新エネルギー小委員会に提出された事務局資料注5)は、太陽光発電事業者からの費用報告(実績ベース)を分析し、買取価格改定のタイミング(毎年4月)において、前月(毎年3月)から、1ヵ月もたたない中で、モジュール単価が1万円/kW程度、中には5万円/kW程度下落している傾向が見えるとしている。この短期間で、実際にモジュール価格のコストが低下したとは考えにくいことから、現実の市場では、買取価格の水準、すなわち「売れる価格」に合わせて、モジュール価格が決定されている可能性があることを指摘している。
国内産業の育成も効果の一つとして期待されたが、先に紹介した野村浩二慶応義塾大学産業研究所准教授提出の資料によれば、FIT導入後、太陽光発電システムの輸入比率は急上昇し、現在でもおおむね70-80%は輸入されているとする。筆者自身も各地のメガソーラーを訪問したが、国産品が使用されたプロジェクトは極めて稀であると感じている。
3)電力システム改革との齟齬(安定供給懸念)
再生可能エネルギーはコストの面で優遇されているのみならず、「稼ぐ機会」についても最優先される。再生可能エネルギー優先給電ルールによって、太陽光や風力が発電しているときには既存電源は発電することはできず、それらが発電しないタイミングでのみ発電することを許される。既存の電源は再生可能エネルギーの「調整役」となることから、稼ぐチャンスを失い、稼働率が低下してしまう。自由化された市場において、稼働率の低下した設備を維持するモチベーションを事業者が持つことはない。こうして、火力発電への投資インセンティブは低下し、国として適正な発電容量を維持することが難しくなるのである。自由化された市場においては、稼ぐチャンスを失った設備は淘汰されざるを得ない。
例えば、現在の日本の石炭火力の稼働時間は年間平均7500時間程度とされる。しかしドイツにおいては3000~4000時間程度となっており、起動停止回数の増加で設備トラブルも増加しているとされる。ドイツで最新鋭のIrsching 天然ガス火力4,5号(最新鋭GTCC)については、事業者(E.ON)が廃止を申し出たものの、いざというときのためにこの電源を維持しておく必要があるとして、ドイツ政府はこの5号機を維持する対価を事業者(E.ON)に年間1億ユーロ(約150億円)支払ったと報道されている注7)。
下記のグラフは、ドイツと同様、FITにより再生可能エネルギーが大量導入されたスペインにおいてGTCC(ガス火力)の利用率がどう推移したかを示したものだ。我が国においても再生可能エネルギーの導入量がさらに拡大すれば同じような事態に陥ることとなろう。
今回は導入としてこの3点の課題を指摘するにとどめるが、今後各方面の専門家からFITの課題だけでなく、再生可能エネルギーの普及政策がどうあるべきかの提言もいただき、このコーナーで発信していきたいと思う。
- 注4)
- http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/004/pdf/004_11.pdf