日本の約束草案は野心のレベルが足りないのか?(第2回)
有馬 純・本部 和彦・立花 慶治
東京大学公共政策大学院 教授・客員教授・客員研究員
更に地球環境産業技術機構(RITE)のモデル分析注6) を見ると日本の限界削減費用は米国やEUに比して高い(図10)。このため、日本のINDCは限界削減費用の面では米国、EUよりもはるかに野心的であり(表2)、GDP当たり削減費用で見ても米国、EUと同程度に野心的であるといえる(表3)。
5.日本は原子力なしで、より野心的なINDCが出せるのか
世界資源研究所(WRI)は「原発なしでも再生可能エネルギー、省エネルギーへの追加投資により、2013年比31%の削減が可能である」との地球環境戦略研究機関(IGES)のワーキングペーパー“Comparative Assessment of GHG Mitigation Scenarios for Japan in 2030”注7) , を引用して日本のINDCを「野心的でない」と批判している。しかしIGES自身が「このスタディは異なる削減努力水準の経済影響を検討していない。我々の研究スコープには経済影響が入っていないが、各国の温室効果ガス削減目標策定において経済影響の評価は最も重要な指標の一つである」と認めている注8) 。INDCが日本経済のコストに非常に大きな影響を及ぼすことを考慮すれば、その視点を考慮に入れないスタディは政策決定の参考としておよそ無意味である。
化石燃料の輸入増大、円安の進行、FIT賦課金の拡大により、日本の電力料金は震災以降25-40%上昇し(図11)、国民生活、産業活動、マクロ経済に大きな負担をもたらしている。
だからこそエネルギーミックスの設定に当たってエネルギー安全保障(自給率の回復)、環境保全(CO2排出削減)とあわせて経済効率(エネルギーコストの低減)が重要な要件として位置づけられたのである。新たなエネルギーミックスでは、再生可能エネルギーの拡大に伴うコスト増(FITによる不可避的増大)を原発の再稼動、省エネ、再生可能エネルギーによる化石燃料輸入コスト節約分で吸収し、全体としてエネルギーコストを下げることを目指している(図12)。
- 注8)
- 同スタディ24ページ