ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第4回

comprehensiveな容量メカニズムがミッシングマネーを補う


Policy study group for electric power industry reform

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図12:n=3の場合の電源ミックス (出所) 山本・戸田(2013)

図12:n=3の場合の電源ミックス
(出所) 山本・戸田(2013)

図13:前提となる需要のデュレーションカーブ (出所) 山本・戸田(2013)

図13:前提となる需要のデュレーションカーブ
(出所) 山本・戸田(2013)

 この電源ミックスの下で、kWh市場の価格が限界費用で決まる場合、つまり、各時間帯において、需要を満たすために、電源を限界費用の順番に稼働していき、需要と供給が一致する電源の限界費用(稼働した電源の最も高い限界費用)で市場価格が決まる場合、各電源種はF1相当額(最も安い固定費単価)の固定費が回収できない注26)

 つまり、図12は、図13の需要と利用可能な電源種を所与として、長期的に最経済な電源ミックスと、メリットオーダーによる短期的に最経済な電源運用を達成している。しかし、表1のとおり、個々の電源に0.8万円/kW/年のミッシングマネーが発生していて、持続可能ではない。この金額を容量メカニズムにより、kWの対価として全電源に支払えば、持続可能性が確保される。

表1:n=3の場合の電源の収益性(年額) (出所) 山本・戸田(2013)

表1:n=3の場合の電源の収益性(年額)
(出所) 山本・戸田(2013)

<comprehensiveな容量メカニズムがミッシングマネーを補う>

 米国東部の電力市場で導入されている容量メカニズム(容量市場)は、この考え方をベースとしている。すなわち、安定供給上必要な全電源にkW価値の対価を支払う。対価の水準は、オークションによって決まるものの、目安としてNetCONEという指標を用いている。Net CONEのCONEは、Cost of New Entryの略であり、直訳すれば新規参入の費用である。具体的には、ピーク電源(例:シングルサイクルのガスタービン)を新たに建設することを想定し、当該電源に発生すると想定されるミッシングマネーの額である注27)

 このように、kWh市場でミッシングマネーが発生することを前提に、安定供給上必要な全ての電源にkW価値を支払うしくみを、「comprehensiveな容量メカニズム」と呼ぶ。米国東部の電力市場で導入されているもの、フランス、英国が導入を決めたものがこれに当たる。これに対しドイツは、comprehensiveな容量メカニズムの導入は見送り、需給逼迫時に限って稼働する電源に限定して、系統運用者がkW価値を支払う戦略的予備力を導入する。戦略的予備力は、一部の電源にkW価値の支払いを限定することから、「selectiveな容量メカニズム」と呼ばれる。容量メカニズムの一種ではあるが、kWh市場においてミッシングマネーが発生しないことを前提とする点で、comprehensiveな容量メカニズムとは異質なものである。

注26)
F1相当額のミッシングマネーが発生するのは、需要のデュレーションカーブの形状によらず不変である。ただし、現実のデュレーションカーブは、このモデルの前提よりもピーク時間帯で傾きが大きいので、ピーク電源のシェアが大きめになる。
注27)
当該電源の固定費から、当該電源がkWh市場及びアンシラリーサービス市場から得ると想定されるレント(第1回図2に示す固定費回収原資)を差し引いたもの。
<参考文献>
 
Joskow, P.L. (2006), “Competitive Electricity Markets and Investment in New Generating Capacity
ドイツ経済エネルギー省(2015) , “An electricity market for Germany’s energy transition White Paper by the Federal Ministry for Economic Affairs and Energy
経済産業省 (2013a) , “電力システム改革専門委員会報告書
八田達夫、三木陽介(2013) , “電力自由化に関わる市場設計の国際比較研究 ~欧州における電力の最終需給調整を中心として~”, RIETI Discussion Paper Series 13-J-075
山本隆三、戸田直樹(2013) , “電力市場が電力不足を招く、missing money問題(固定費回収不足問題)にどう取り組むか”, IEEI Discussion Paper 2013-001

執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

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