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緊急提言 【提言6】

—COP21:国際交渉・国内対策はどうあるべきかー


国際環境経済研究所前所長


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<税による排出削減効果は限定的>

我が国は、平成24年度税制改正において「地球温暖化対策のための税」を創設した。一般に税目の名称は、課税対象の名前を冠することが多いが、地球温暖化対策税は、使途を名称にしており、対策予算の財源であるという性格が前面に出ている。その税収は、再生可能エネルギーや省エネ対策などエネルギー起源CO2排出抑制対策の強化に使途が限定されている「目的税」である。このような制度的構造の下では、関係省庁がその税収を使い切ろうとする傾向が強くなるため、使途の選別や対策の実効性に対するチェックが甘くなる傾向がある。現在の地球温暖化対策税の使途については、効果が明確でなく無駄があること、省庁間の重複が多いという批判は政府審議会の場でも多く指摘されている。既存技術普及への補助事業から、リスクの高い革新的技術開発のための研究開発投資に向けるなど、使途を見直すべきであるし、無駄や使途の合理化が進んでいるとの客観的な評価が得られない限り、減税あるいは税の廃止も検討されるべきである。
この地球温暖化対策税を課税することにより化石燃料価格を上昇させ、需要を抑制する=化石燃料に由来するCO2の排出抑制を進めるという考え方は、経済学の理論上はともかく、現実の税制では副次的な効果しか期待されていない。そもそも日本では、既にすべての化石燃料の使用に対して「石油石炭税」が課税されており、地球温暖化対策税賦課による価格上昇効果、たとえばガソリンで言えば1.5円/㍑によってエネルギーの利用抑制に効果があるとは考え難い。価格弾性値の低い(つまり生活必需品である)エネルギーの使用を大きく削減するには相当程度税率を高くせざるをえず、政治的、経済的な理由(国民負担、国際競争力上の懸念等)で実施困難(いわば人為的にオイルショックを引き起こすようなもの)なのである。また、仮に税率を排出削減に十分な水準まで上げた結果、実際にエネルギー消費が大きく削減された場合には、税収も大幅に落ち込むことになり(歴史的には「地価税」がその例)、温暖化対策を予算化することが困難になる。そうなれば、そもそも目的税の用をなさなくなることから、温暖化対策を充実させていきたい政府としては、超高率の増税は適切な選択肢とはならないのである。
エネルギー供給構造高度化法を電力に適用すれば、低炭素電源の比率を向上させるために、原子力及び再生可能エネルギーによる発電量を一定規模維持できるような設備構成を、政府が電力業界に求めることができる。その法制度全体および現行の運用は、基本的に誘導的なものではあるが、最終的には政府が「勧告権」を有しており、この点に着目すれば相当介入度の強い法律とも言える。「勧告権」の運用のあり方については、原子力の再稼働の状況、再エネによる国民負担の増加や抑制措置の実施状況などの進展を踏まえ、慎重に検討を深めるべきである。

<排出権取引は京都議定書的枠組の産物>

国による直接的介入により温室効果ガス排出をコントロールする排出権取引制度は、国が企業や事業所などの排出する温室効果ガスの量の上限(Cap)を設定して割り当てたうえで、企業などがその枠の中で過不足分を取引することを認める「排出枠割当て・取引」制度である。この手法を用いれば、国は企業活動からの排出量を確実に上限以下に抑えることができる。ただし、その排出枠総量の設定が甘過ぎれば、企業は余剰枠を持つことになり、排出権の価格は低迷してしまい、本来この制度導入の狙いであった低炭素技術が市場で選択されるための誘導手段として機能しないことになる。逆に厳しすぎれば排出権価格を高く維持することはできるが、事業活動継続のためには、企業は高騰した排出権を購入せざるを得なくなり、国際競争力を失うか、海外に事業活動を移転させることになる(CO2は海外で排出するので、地球全体で見たら結局排出量は削減されない=leakage)。
図表2(p.11)に見る通り、各国の温室効果ガスの限界削減コストには現実に大きな乖離がある。こうした状況の下では、限界削減費用が高い削減目標を掲げた(=排出制約がきつい)国から限界削減費用が低い目標設定をした(制約の緩い)国への生産拠点の移転(=leakage)が起き、富の移転を招くだけで、地球全体の排出削減にはつながらない。世界共通の炭素価格が何等かの形で導入されれば限界削減費用は平準化し、こうした問題は回避できるが、様々な政治・経済・社会・文化構造を持ち、経済発展段階も異なる国々が共通炭素価格導入に合意することは、理想論として語られることはあっても「世界共通言語」の導入や「世界共通通貨」の設定ができないのと同様、現実的には不可能である。
また、排出権取引制度の最大の課題は、政府による初期の排出権割り当てが合理的かつ公平に行うことが可能かどうかにある。実体上は、すべての企業や事業所に公平で合理的な割り当てを事前に行うことは極めて困難であり、取引後には限界削減費用が均等化することによって効率的な資源配分が可能になるといっても、初期配分による実質上の所得分配が不公平感を引き起こすことになる。
排出権を最初に無償で割り当てる(グランドファザリング)場合、その配分によっては、特定の産業に望外の利益をもたらすことになり、政府が産業間の所得分配に直接的に介入する結果となる。実際、欧州排出権取引制度(EU-ETS)の第1フェーズ(2005年〜07年)において、電力業界やエネルギー多消費産業がこうした過剰割り当てを受けた結果、余剰排出枠の売却益=「たなぼた利益(windfallprofit)」 を手にしたことは広く認識されている。IPCC第5次評価報告書本文においても、EU-ETS制度が意図された程には成功しなかったこと、近年の排出権価格の恒久的な低迷によって、追加的な排出削減についてのインセンティブを与えることができないことが指摘されている。
初期割当の難しさを回避するため、排出枠を有償でオークションした場合、対象セクターにとっては新たなコスト負担となり、国際競争に晒された産業の空洞化を促すことになる。EU-ETSの例に倣って国際競争に晒されない電力分野のみオークションの対象にするとの議論もあるかもしれないが、限界削減費用がもともと極めて高い日本においては、炭素価格が暴騰する可能性があり、それは発電コストの大幅な上昇をもたらす。これは、エネルギーミックス検討の際に掲げられた3つの政策目標の1つである電力コストの現状水準以下への引き下げに背反することになり、既に正式に気候変動枠組条約事務局に提出した約束草案の前提条件を崩すことになってしまうのである。
そもそも2020年以降の枠組みでは、提言1で指摘したとおり、各国が削減目標の達成に法的義務を負うことにはならない見通しである。目標達成の義務化には経済成長を重視する主要途上国が反対しており、一方米国は、自国が負う義務が中国と同等でない枠組みには乗れないとしているからである。各国が義務的な目標を掲げた京都議定書の下で考えられた排出枠割当・取引制度は目標未達に対するペナルティとしての意味合いを有しており、そうした義務的目標を掲げることにならない新枠組みにおいては根底からその存在意義を考えなおすべきである。

<温暖化対策にはコストがかかるという現実を直視せよ>

温暖化目標の議論においてはしばしばコスト負担が度外視される。欧州では野心的な温暖化目標・対策が新たな産業、雇用を生み出すという「グリーン成長」の議論が盛んであったが、欧州の産業団体ビジネスヨーロッパは、「米国経済はシェール革命で安価なエネルギーコストを享受する一方、欧州経済はEU-ETS、再生可能エネルギー政策等の高コスト政策によって低迷している」とコストを軽視してきた欧州のエネルギー環境政策を厳しく批判している※14。また欧州の温暖化政策をリードしてきた英国でも、再生可能エネルギーへの補助政策が国民のエネルギーコスト負担を押し上げ、深刻な「エネルギー貧困(energy poverty)」を引き起こしているとの批判がたかまり、大幅な政策の見直しが行われているし、ドイツも再生可能エネルギーの導入に市場原理を導入しコスト負担抑制を図っている。温暖化対策は長期的な取り組みを要する課題であり、コストを伴うという事実を直視しなければならない。国民や産業界のコスト負担が現実的に可能であり、かつ、国際的にその負担が公平であることが理解されなければ、温暖化対策に対する国内的なコンセンサスは得られず、持続可能な政策とはなりえない。

※14
ビジネスヨーロッパ “A Competitive EU Energy and Climate Policy”
http://www.businesseurope.eu/content/default.asp?PageID=568&DocID=31830

緊急提言【提言7】へ続く

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