仮想発電所
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
経済産業省は、欧米で導入されつつある仮想発電設備(VPP: Virtual Power Plant)の事業化に2016年度から乗り出す方針で予算を準備すると報道されている。日本もやっと本格的に取り組むようになったかというのが実感だ。VPPに明確な定義はないようだが、スマートグリッドの展開の中でマイクログリッドの考え方が具体化し、それがさらに進展したものだと理解している。
20世紀の終り頃から、太陽光発電、風力発電、コージェネレーション(熱電併給)といった分散型発電が普及するようになり、ほとんど全て電力供給系統の末端にある電力の需要地に設置された。これを伝統的な電力事業から見ると、自分たちが制御できない発電設備が送配電系統の末端に設置され、電力の売上げを引き下げることになることから、分散型電源の拡大には基本的に反対の姿勢を示していた。しかし、分散型発電のエネルギー効率が高く、自然エネルギーによる発電は化石燃料を消費しないことから、エネルギー政策として推進され普及が進んだ。
一方、電力需要の変動には瞬時に対応しなければならない電力供給事業者は、短時間に需要が急増する場合に備えて発電設備を保有しなければならず、その短時間しか稼動しないピーク対応用発電設備への投資を回避する方策として、需要の増減を電力事業者が積極的にコントロールするデマンドサイド・マネジメント(DSM)が米国を中心に推進された。そして、DSMに向けた具体策の一つとして、電力供給事業者の要請指示に応じて電力消費を抑制すれば何らかのメリットが需要家に与えられる方式で需要制御を行うデマンド・レスポンス(DR:需要応答)が、スマートメーター(次世代型電力計)の設置とともに行われるようになった。日本でも各地でDRの実証試験が行われている。これには高度な情報通信技術の応用が不可欠である。電力消費の抑制は、供給側から見ると小規模な電源を一時的に増やしたのと同じ効果を持つ。さらに、需要端に天候によって出力が変動する風力発電や太陽光発電が大量に送配電系統に接続されるようになって、蓄電システムと同時にDRが一種の需給調整電源としても利用されるようになった。
系統に接続されるDRも含めた分散型電源を、情報通信網によって相互に結び合わせ、エネルギー効率を高め、地域の電力需要に則して安定した稼動にするように一元制御しようとするのがマイクログリッドである。そのマイクログリッドの中に設置された分散型電源(DRも含める)全体を一つにまとめると、小規模な発電所が電力の需要地に設置されたのと同じ効果を生む。そして、それぞれの電源は情報通信網を集約するアグリゲーターによって一元的に制御されているために、送配電系統を制御する中央指令からの情報・指示を受けて、発電量の増減や系統の安定性・品質維持に貢献できるような稼動をさせることができる。このように総括運用できる小規模分散型電源が仮想発電所の定義であるようだ。また、分散型電源の発電規模を積み上げた全体の規模が、その地域の電力需要と見合ったものである場合、系統がトラブルによって停電した場合などには、系統から切り離して電力供給を継続することも可能となり、地域の電力供給の安定性を向上させることができる。
いま日本では、エネルギーの地産地消を目指した地域電力事業が幾つも計画されている。これが、小さな地域であってもエネルギー自給自足ができるとすれば、一種の仮想発電所の誕生ということになる。欧米でもまだ実証実験段階にあるものだが、その早期実現を期待したい。