迷走するエネルギー政策が引き起こすのは停電か料金高騰か、それとも温暖化か?

豪州とドイツの電力政策が教えること


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 2030年のエネルギーミックスと温室効果ガスの排出目標値が決定した。エネルギーと電力の構成比が決定しなければ、二酸化炭素(CO2)の排出量を予測できないので、エネルギーミックスに関する政策が温暖化対策にとって重要になるのは当然だ。一方、エネルギー政策に不確実性があると、再エネ発電設備を含む新規設備への投資が阻害され、温暖化対策に遅れが生じることもある。場合によっては、設備建設の遅れが停電あるいは電気料金の高騰を招くことにもなる。

 日本では、来年から電力の全面自由化が待ち受けているため、今後の政策の意図が重要になる。つまり、自由化されると、投資の意思決定を市場に任せることになるので、エネルギーミックスで定めた電源の目標値を実現するには、市場の意思を政策で導くことが必要になる。固定価格買い取り制度(FIT)などにより、再エネ導入だけを支援する政策だけでは、電源構成が迷走し、エネルギーミックスの数字は絵に描いた餅になり、温暖化対策、電力供給で問題が生じる可能性がある。最近、豪州、ドイツではエネルギー政策が迷走し、発電設備への投資が滞る事態があった。政策の有効性を考えるうえで、日本も両国の事例を参考にすべきだろう。

 豪州では、2013年の総選挙により自由党と国民党の連立政権が誕生した。アボット自由党党首が13年9月に首相に就任したが、14年半ばにアボット首相は再エネ政策の見直しに言及した。しかし、最近まで具体策は明らかにならなかった。豪州では、連邦政府が2001年に再エネ目標法を定め、電力会社が再エネからの電気を買い取り電気料金の形で費用を回収することになっている。目標値は20年の発電量における再エネのシェア20%、発電量410億kWhだった。加えて、州政府段階でも補助金、FITなどにより再エネ設備導入を支援している。

 アボット首相が、再エネ政策の見直しに踏み切った理由はいくつかありそうだ。まず、電気料金による負担額の問題だ。豪州の電気料金は、国内炭を利用する価格競争力がある石炭火力が発電の7割以上を占めているにもかかわらず送配電費用が高いことから、家庭用の平均では、日本より少し安い1kWh当たり25円程度だ。その料金のうち2豪州セント弱(1.8円)が連邦、州政府の再エネ支援策の負担金になっている。20年に向け、再エネの負担金はさらに上昇する。

 アボット首相は、温室効果ガスによる温暖化の発生を疑う懐疑論の立場と報道されており、2012年7月に導入されていた炭素税を14年7月に廃止した。当初導入額がCO2 1トン当たり23豪州ドルの炭素税は、電気料金に置き換えると約9%の負担になっていたので、炭素税の廃止は電気料金の引き下げにつながった。

 再エネ政策見直し発表はあったものの、見直しの方向が不詳だったことから、豪州では再エネへの投資が昨年の夏以降停滞することとなった。新政策は、この6月に発表され、20年の再エネ導入量は410億kWhから330億kWhに引き下げられることになった。目標値は下方修正されたものの、民間企業は再エネへの投資を再開するものと予想されている。

 豪州の電力供給システムには余裕がある。最大電力需要3360万kWに対し供給設備は4780万kWあり、予備率は約30%ある。しかも、発電設備の4分の3は安定的に発電が可能な石炭か天然ガスだ。現在の発電量の内訳は図-1の通りであり、再エネ設備の建設が遅れても供給に問題は生じないが、温暖化対策への影響はある。

図-1