次世代電力供給ネットワーク(スーパーグリッド)構想


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 講演では、DESERTEC構想の進捗状況として、「スペイン-モロッコ間」「アルジェリア-スペイン間」「チュニジア-イタリア間」のHVDC(高電圧直流)送電の実用化研究段階が進んでおり、「スペイン-モロッコ間」では既に400MWの連系線が2本つながったと解説されました。ヨーロッパと中東、北アフリカを相互に結ぶ電力システムの中で、効率的に再生可能エネルギーをスマートミックスするためには、①北アフリカと中東の砂漠における太陽熱発電、②北西アフリカ、北ヨーロッパ、西欧沿岸の風力発電、③日照の多い地域における太陽光発電、④アルプス山脈、ピレネー山脈、アトラス山脈の山岳地域における水力発電、⑤地理的条件に合致する場所でのバイオマスおよび地熱発電、というように異なった再生可能エネルギーが偏在していれば、過不足融通できるようになります。低ロスで長距離輸送が可能なHVDC送電線のスーパーグリッドで、ヨーロッパ、北アフリカ、中東間の相互接続は可能になり、砂漠から再生可能エネルギーを送電するという壮大な夢の計画は実現不可ではないのです。
 ただ、デザーテック構想に関する最近の調査報告や報道をいろいろ調べてみると、当初の計画では膨大なコストがかかるため、一部ネットワークの規模の縮小やエネルギー貯蔵技術を導入するなど、現実路線に切り替えてプロジェクトを推進していくのではないかという見方が強まっています。

(図3)出典:デザーテック財団「DESERTEC構想に有効な太陽熱発電所」

(図3)出典:デザーテック財団「DESERTEC構想に有効な太陽熱発電所」

日本のスーパーグリッド構想

 では、日本のスーパーグリッド構想はどうなのでしょうか?2つのスーパーグリッド構想を紹介したいと思います。ソフトバンクグループ創業者で自然エネルギー財団設立者の孫正義氏と環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は、日本国内の「スーパーグリッド構想」と、将来的には日本を含めアジア各国を大容量の高圧送電線で連結し、互いに電力を融通する「アジアスーパーグリッド構想」を提唱しています。北海道の稚内から九州の福岡まで広域横断連系—直流の基幹線を整備することにより、東西で異なる周波数問題がなくなり、例えば稚内で発電した太陽光や風力による電力を首都圏やその他の各地に送ることが可能になるといいます。

(図4)出典:自然エネルギー財団「アジアスーパーグリッド構想」

(図4)出典:自然エネルギー財団「アジアスーパーグリッド構想」

 もう一つは、「東アジアスーパーグリッド構想」です。この構想は、日本創成会議(座長:東京大学大学院客員教授・元総務相 増田寛也氏)が提唱しているもので、孤立している日本の電力網(グリッド)を外国と相互接続し、国境を越えて電力を融通しあう仕組みです。手始めに、韓国との間で双方のグリッドをつなぐ海底ケーブルを敷設する計画を提案しています。基幹ケーブルは、日本の電力会社が東西各地で運用するグリッドに、交流・直通変換設備を介して接続するというものです。

(図5)「東アジアスーパーグリッド構想」

(図5)「東アジアスーパーグリッド構想」

 国家間の政治的な問題などがあり、アジア各国と連系した電力ネットワークの実現化は厳しいというのが実情でしょうが、将来的な夢として、その可能性は抱いていたいです。エネルギーを依存し合える関係になれば、対立ではなく、国家間の相互理解につながることも期待しつつ・・・。