再エネは「安い」のか?
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
第二に、再エネを大量に導入するのであれば、ガス火力だけでなく石炭火力との比較も必要である。図2は図1にもう一本需要曲線を加えたものである。需要曲線がD1であれば、再エネが発電することによってガス火力の可変費負担が回避されるので、再エネの発電コストがガス火力の可変費P1よりも安ければ経済的と評価できる。他方、需要曲線がD2のときは、再エネ発電により回避されるのは、ガス火力よりも限界コストの安い石炭火力の可変費P2であり、それより安くないと再エネは経済的とは言えない。
このP1またはP2が回避可能費用と呼ばれるものであるが、再エネの導入量が増えるにしたがい、回避可能費用はP1ではなくて、P2で決まる時間帯が増えてくることになる。回避可能費用とは、要するに再エネが発電する電気の価値である。回避可能費用が下がるとは、再エネが生み出す電気の価値が下がることに他ならない。つまり、再エネは、導入量が増えるに従って、発電する電気の価値が落ちていく。価値が落ちていくのであれば、それに呼応してコストを下げていかないと、経済的な電源とはいえなくなるわけだ。
上記の話を日本に適用してみる。先日政府が公表した「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」によると、2014年の電源モデルでガス火力の可変費は12.1円/kWh、石炭火力は8.5円/kWhである注1)。この水準以下を目標としていただくことを再エネ関係者には望みたい。
上記のほかにも、再エネ電源の適地が偏在しているのであれば、送電系統を増強するコストを考慮する必要があるとか、発電時間が短時間で大きく変動することに備えて、周波数を安定させる対策のコストを考慮する必要である等も論点となる。
こうした考察を経ない「再エネは安い」という議論には重大な欠陥があるということだ。
- 注1)
- 同資料のP10参照。燃料費+CO2対策費を可変費と見なしている。