【緊急提言】誤解だらけの気候変動問題
-省エネに対する期待は”適正”か-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
日本の温室効果ガス排出量が増加している。環境省が4月14日に発表した確報値では、2013 年度の我が国の温室効果ガスの総排出量は、14 億 800 万トン(CO2換算)となり、前年度比+1.2%、2005年度比+0.8%、1990年度比では+10.8%となる。1990年度以降で最多だった2007年度(14億1200万トン)に次ぐ、過去2番目の排出量とあって報道機関の多くがこのニュースを報じた。しかし問題の本質に正面から向き合う記事は殆ど見られない。
例えば毎日新聞の4月14日付け記事「温室効果ガス:日本1.2%増…13年度排出量過去2番目」注1)は、環境省発表のデータを伝えた上で、最後に環境省担当者の言葉として「目標達成に向け、省エネや次世代自動車の普及など一層の努力が必要だ」として記事を締めくくっている。
環境省は確報値と同時に増加要因についてもその分析を発表しており、前年度比の増加は石炭火力発電所の稼働増加等によるエネルギー起源 CO2の排出量増加、05年度比の増加は冷媒分野からのハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出増加と、火力発電の稼働増加によるエネルギー起源 CO2の排出量増加を要因として挙げている。どちらも主要因が原子力発電所の停止による火力発電の稼働増加であることは明らかであり、環境省もそう分析しているのに、担当者がその対策として「省エネと次世代自動車の普及」を挙げたとすれば原因分析と対策立案が全く不整合である。担当者のコメントの一部が抜粋されたものだと推測するが、このように、現状抱える課題を省エネや新技術への期待でごまかしてしまう議論は多い。
日本のエネルギーをどう賄っていくか、供給サイドの見通しが立たない中で温暖化対策について前向きな議論をしようとすれば、いきおい需要サイドでの削減、すなわち省エネに期待が高まる。しかしどれほどの期待を持つのが”適正”なのであろうか。
CO2排出量の見通しを立てるには、まずエネルギー需要の見通しを立てる必要があるが、そのエネルギー需要の見通しを立てるにも複数のステップを踏まねばならない。筆者の参加する約束草案検討ワーキンググループで示された資料がわかりやすいので下記に紹介する。
この図にあるように、まず人口や労働人口、世帯数など前提となる条件を見定め、経済活動の活発さ(GDP、産業部門の生産水準、業務部門の業務床面積、運輸部門の輸送量など)を想定する。こうしたマクロフレームを置いた上で、それぞれの部門で想定される経済活動の水準にエネルギー消費原単位をかけると省エネ対策の効果を織り込まない最終エネルギー消費量や電力需要の予想ができる。ここから省エネの効果を引いて、最終的な見通しが導き出される。