「ゴミ問題」の危機感と解決策提案
書評:野口 健 著「世界遺産にされて富士山は泣いている」
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2015年3月20日付)
著者とはもう何年のおつきあいになるだろうか。環境雑誌の企画で、対談をさせていただいたのが最初の出会いであった。七大陸最高峰登頂の最年少記録を樹立し、富士山やエベレストの清掃活動に取り組む彼は既に有名人。緊張しながら挨拶する私に、人懐こい笑顔を向けると例の早口で一気に話し始めた。
「自分一人で拾えるゴミなんてたかがしれてる。だから富士山のゴミ問題を解決するには拾う仲間を増やすこと、捨てない人を増やすことが大事」、「そのためには現場にいる俺達が、格好良くいなきゃいけない。人に自然保護は格好良い、真似したいと思わせたら勝ちだ」、「現実を知れば、人はその現場から離れられなくなる。知ることは、背負うことでもあり、辛いことだけど、知って現場に来てくれる人が増えれば世の中は変わる」
当たり前のことだが、どんな社会問題も一握りの人間が頑張るだけでは解決しない。ゴミ問題の現場で活動し、無力感や徒労感を嫌というほど味わってきた著者だからこそ、人に伝え、巻き込むことの重要性を実感していたのだと思う。発信すれば反発や誤解も受ける。決して華やかで楽なことばかりではないが、彼は発信者としての役割を背負い続けてきた。
そんな彼が富士山の世界遺産認定を受けて出版したのが「世界遺産にされて富士山は泣いている」。世界遺産というタイトルを得て満足しているに違いない、これまでの清掃活動が実り評価された結果と喜んでいるだろう、それがなぜ「富士山は泣いている」なのかと首をかしげた方もいただろう。
しかし、世界遺産認定はゴールではない。世界中から注目され、ふさわしくない状態だと判断されれば認定を取り消されることもある。世界遺産というタイトルに惹かれ人が押し寄せるなかで富士山を守っていかねばならない。富士山をきれいにしたいというシンプルな思いで富士山と向き合ってきた著者のストレートな危機感と解決に向けた提案がつづられている。世界遺産にも富士山にも自然保護にもそれほど関心がないという方にこそ、手にとって欲しい一冊である。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
「世界遺産にされて富士山は泣いている」
著者:野口 健(出版社: PHP研究所)
ISBN-10: 4569820042
ISBN-13: 978-4569820040