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大幅な省エネ見通しの国民負担を精査せよ

既存のモデル試算は電力価格倍増を示唆している


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


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 だが、いくつかの成功事例があるからといって、それを大規模に実施することが、直ちに正当化されるわけではなかろう。国全体の電力消費の△17%という大幅な省エネ目標の達成を目指すために、補助金や規制を多用することは、やるべきことだろうか。さらには、「適切な補助金・規制を用いることで、電力価格を上昇させることなく、積上げ計算によって示された大幅な省エネポテンシャルを実現できる」注3)という考え方は成立するのだろうか。
 この主張に対する最大の懸念は、エネルギーを使用する設備や機器等の技術の選択において、政府の役割が大きくなり過ぎると、その意思決定においては政治的な配慮が優先されるようになり、経済的な効率性が犠牲になること、すなわち「政府の失敗」が膨らむことである。実際に、最近の日本の省エネ・再エネの事例を見ると、家電エコポイント、再エネ全量買取り制度(FIT)、バイオマスニッポン総合戦略など、大規模な補助事業において、費用対効果という観点からは、失敗と評価されたものもが幾つもある
 市場の失敗がある場合に政府介入が正当化されるといっても、それがかえって政府の失敗を引き起こさないようにしなければならない。補助金も規制も、この観点からは気を付けなければならない。
 その他にも、補助金や規制の実施における「政府の失敗」としては、以下のような懸念もある: 第1に、高い割引率など、一見すると不合理に思える人や企業の行動も、実際には将来の住まい方や売り上げの不確実性などに基づく合理的行動である場合もあり、政府介入がかえって不合理を招くこともある。例えば、政府が補助金を支給して立派な設備を導入しても、その工場が稼働しなければ、ただの無駄遣いになってしまう。工場見学に行くと、そのような使われない立派な設備に出くわすことがある。第2に、積み上げ計算による省エネの費用対効果の試算においては、ベースラインの設定が難しく、また人件費や利便性の低下などの費用の勘定漏れ等が起きやすく、結果として費用が過小に、効果が過大に評価される場合が多く、それが過剰な政府介入の根拠となる、という批判もある。
 以上については学界で長い論争の歴史があった。これは筆者がとりまとめに参加したIPCCの第5次評価報告書にも収められている。「電力価格を上げなくても、補助金や規制によって、国民負担を回避しつつ大幅に省エネができる」とする意見には、特にMITのジャコビー(Jacoby 1998)やハーバード大学のスターバンス (Stavins 2009)等の経済学者によって、上述のような批判があり、「補助金や規制の多用によって野心的なCO2削減目標を達成しようとすると、価格効果に依ると想定した試算よりも、政府の失敗によって効率が悪くなり、余計に費用が掛かる」という主張がなされてきた(日本語での入門的解説はこちら更に詳しくは拙著を参照)。
 これらの批判が絶対に正しいというつもりはない。だが少なくとも、これらの批判があることを理解し、価格効果に依らず補助金や規制に依ると考えた場合にも、国民負担は少なからず発生するのではないかという疑問を持って、詳しく検討する必要があるのではなかろうか。今回の小委でも一応は費用対効果について言及されているが、上述のような観点から詳しく議論されてはおらず、これだけでは不十分と思われる。

<CO2数値目標設定の前に、省エネの国民負担の精査が必要>

 以上をまとめると、現在、小委が見込んでいる省エネ量を実現するためには、価格効果に依ると仮定するならば電力価格倍増といった形での国民負担を意味する可能性があり、補助金や規制に依るとしても、政府の失敗を招くことによって、価格効果に依る場合以上に国民負担は大きくなるかもしれない、という疑いがある。少なくとも、そのような疑いを持って、国民負担を精査する必要がある。
 いま日本は、安定した経済成長を目指している。自民党の原子力政策・需給問題等調査会(額賀福志郎会長)は、電力価格を震災前の水準に抑制すること、そのために、ベースロード電源比率を60%以上にするという骨子で提言をまとめ、安倍首相に提出した。
 だがもしも大幅な省エネ見通しが、電力価格倍増や、あるいは規制や補助金の多用などの形で、大きな国民負担に帰結するならば、ベースロード電源を増やして電力供給コストを下げるとしても、その意義は大いに減じられてしまう。
 今一度、エネルギー環境会議の時と同様なモデル試算等、本稿で紹介した議論を踏まえて、大幅な省エネがもたらす国民負担を精査することが必要である。それなくして、省エネおよびCO2の目標を公式に設定し、内外に約束すべきではないだろう。
 いま世間の耳目は、原子力・再生可能エネといった電力供給サイドに集まっている。だが電力需要サイドにおいても、大幅な省エネの見通しは、国民経済への大きな負担をもたらしうる。このことを今、重要な問題として関係者に提起したい。

注3)
国立環境研究所の4月8日のシンポジウム資料
http://www-iam.nies.go.jp/aim/projects_activities/prov/index_j.html
はこのような主張をしているように読み取れる。

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