米国の次世代エコカー開発(1)
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
今年12月パリで開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、世界各国が2020年以降の地球温暖化対策の新たな国際枠組みの合意を目指す中、米国は排出削減・抑制目標について2025年までに温室効果ガス排出量を05年比で26~28%削減するという米中合意を経て、3月末に国連に提出した。オバマ大統領は、気候変動とクリーンエネルギーを政策の最優先課題に掲げており、COP21での全ての国が参加する意欲的な合意成立に向けて、国際社会に積極的な姿勢をアピールしている。
先日、ワシントンDCで気候変動(地球温暖化)政策や低炭素技術の方向性について、シンクタンクのアナリストら専門家にヒアリングを行った。新企画『クリーンパワープランで米国は世界の低炭素技術をリードするか』では、このヒアリングをもとに米国の今後の低炭素技術の方向性を探りたいと考えている。最初は米国の次世代エコカー開発について取り上げたい。
今年1月22日に開催されたワシントンオートショー15では、米テスラ・モーターズのEV「Tesla」や、トヨタの量産型FCV(燃料電池車)「MIRAI」が熱い視線を浴びた。このオートショーで、気候変動政策推進派としてオバマ政権を支える一人としても知られるアーネスト・モニツ・米エネルギー省(DOE :Department of Energy)長官は、EVと燃料電池自動車関連技術の効率性向上に5500万ドル(約66億円)の予算を投じるとスピーチした。
排ガスを出さないEVやプラグインハイブリッド(PHV)、燃料電池自動車(FCV)などの自動車をZEV(Zero Emission Vehicle)と呼んでいるが、米国の中でも環境規制に厳しいカリフォルニア州では、1990年以降、自動車メーカーに対して販売台数の一定割合をZEVにするよう義務付ける「ZEV規制」を導入している。現在、州内で販売する新車の14%をZEV車の販売を義務付けているが、18年から2025年にその割合を15.4%に引き上げる予定である。実際には、ハイブリッド車(HV)や天然ガス車などもZEVに準じて考慮されているが、規制値をクリアできなかった場合、自動車メーカーはカリフォルニア大気資源局(CARB)に罰金の支払いか、他社から環境クレジットを購入しなくてはならない。カリフォルニア州ではEVは渋滞した高速道路で優先レーンの通用許可を与える優遇措置が行われているが、こうした動きが全米に広がりつつある。
2013年12月、クリーンエネルギーに関連する技術開発を進める自動車と自動車部品メーカーを対象に、合計1億5000万ドル(約180億円)規模の税額控除を行うと発表され、現在、米国ではEVなどの電動自動車購入者には蓄電池容量などにより2500ドルから7500ドルの税額控除が行われている。(FCV購入者の税額控除は昨年12月末終了 http://www.afdc.energy.gov/laws/350)
今の米国の次世代エコカー開発の主役は、EVと言ってもよいのではないか。3年前の2012年、DOEは「The EV Everywhere Grand Challenge」という10年計画の普及プランを公表している。具体的には、2022年に向けて今後10年以内に米国の平均的所得層が購入できる価格帯でのEVなどの次世代エコカーの量産体制をつくるというものだが、現在よりもコストを半減するリチウムイオンバッテリーの開発や1回の充電で最大300マイルの走行を可能にするなどの技術面の改善を図る一方、米国の主要都市にEV充電ステーション網の整備を行っていく計画である。