貿易赤字の続くなかでの原油価格の急落(その1)
急落後の原油価格は、異常高騰以前への回帰である
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
今回の原油価格の下落は、市場経済原理に基づく価格への回帰と見ることができる
この異常と見られる2005年以降の原油価格の高騰が、昨年(2014 年)の後半、急に下落した。この原因としては、世界的な景気後退のなかで、図1-2 に見られるように、エネルギー資源として高価になった石油の需要の停滞(石炭や天然ガスではみられない)のなかで、世界の原油の生産量の32.8 %を占める中東の石油生産(2012年)に主導権を持つサウジアラビアが、価格維持のための生産調整を行わないと発表したためとされている。この価格の下落が余りに急であったから、一時は、一体、どこまで下がるのかが問題にされたが、現在(2014の暮れから2015年の初めにかけて)、どうやら45ドル/バレル前後に落ち着いているようである。
この現在の原油輸入CIF価格の値は、図 1-1 と図1-3 に、十字印で示したように、1973年と1978年の2度の石油危機の影響がなくなって、1993 年頃から始まり2004 年まで続いていた比較的ゆっくりした年次上昇の曲線上に戻ったと見ることができる。すなわち、本来の需要と供給の市場経済の原理に基づいて決まる原油価格に回帰したと見てもよさそうである。
- 1-1.
- 日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編:エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2014年
- 1-2.
- 水野和夫、川島博之 編著:世界史の中の資本主義、エネルギー、食料、国家はどうなるか、東洋経済新報社、2013 年