貿易赤字の続くなかでの原油価格の急落(その1)
急落後の原油価格は、異常高騰以前への回帰である
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
いま、日本経済を苦しめている貿易赤字の大きな要因となっている原油価格が、昨年(2014 年)の後半、やや、突然、急落した。この下落がどうして起こったのか、と何時に、どこまで下がるのかが問題になっている。これらの問題について、先ず、考えてみる。
2005年頃からの原油価格の高騰は、市場経済原理を離れた異常な高騰であった
エネルギー経済統計データ(エネ研データ(文献1-1 ))から、日本における原油の輸入CIF価格(USドル/バレル)の年次変化を図1-1 に示した。この輸入CIF 価格とは、産地の出荷価格に運賃と保険料を上乗せした価格である。産油地から遠い日本の値でも、他の先進諸国の値に比べて余り大きな差が無い(輸送費の比率が余り大きくない)ことから、ここでは、この日本での輸入価格を国際貿易市場での原油価格とほぼ等しいと見なすことにする。
図1-1 に見られるように、輸入CIF価格で表される原油価格は、1980年代初めの石油危機に伴う高値が次第に減少し、1990年代初めを底値にして、やがて、ゆるやかな上昇に転じていた年次増加が、2005年以降、明らかに異常な高騰を示し、それが、今回(2014 年の暮れ)の急落まで続いていた。
この図1-1に示した原油価格の年次変化と、図1-2に示した世界の石油の消費量(資源量としての一次エネルギー消費量で表した値、エネ研データ(文献1-1 )のIEA(国際エネルギー機関)のデータから)の年次変化との相関を調べてみたのが図1-3 である。この図1-3 からも、2005年以降の原油価格の高騰が、世界の石油の年間消費量が2005年以降、殆ど伸びていない中での、すなわち、市場経済原理を離れた異常な高騰であることが判る。
先物市場の取引対象にされて起こった原油価格の異常高騰
原油の生産コストは、生産地の地理的条件、生産される原油の物理化学的性状等によって大きく左右される。水野ら(文献 1-2 )は、最も安価な、サウジアラビア原油では、開発、生産コストがそえぞれ、1.5ドル、総計で3ドル、中東諸国の平均でも5 ドル以下、一方で、アメリカやヨーロッパの沖合油田では、生産費が10ドル、総計で13ドルだが、さらに、カナダのオイルサンド由来の原油では、軽質化のコストが必要になり、平均出荷額は50 ドル以上にもなるとしている。
このように、その生産コストが、産出国別で大きく変化する状況のなかで、石油危機時の高騰に見られるように、国際貿易市場の原油価格は、その生産コストには無関係に、需要と供給のバランスの崩れに、政治的な要因が入り込むことで大きく変化する。さらに、水野ら(文献1-2 )が指摘するように、この政治による介入を超えて、大きく入り込んでいたのが、2005年以降の原油の異常高騰で、その原因は、世界的な経済不況による先進諸国での低金利政策が採られるなかで、原油が先物市場における取引対象とされてしまったためである。