原発の再稼動に55兆円もかけて良いのか
諸葛 宗男
特定非営利活動法人パブリック・アウトリーチ上席研究員
(「アゴラ言語プラットフォーム」からの転載)
はじめに
2013年9月15日に大飯発電所4号機が停止して全原子力発電所が停止して以来、既に1年5ヵ月間我が国にある48基の原子力発電所は休眠状態に置かれている。このため、代替電源の燃料費としてこの4年間(2011年~2014年)に12.7兆円もの国費が海外に流出した。消費税5%に相当する巨額な金額である。アベノミクスでいくら経済を活性化しても、穴の開いたバケツで水を汲んでいるに等しい。
政府、原子力規制委員会は果たしてこの事態を予測していたのだろうか。否である。原子力規制委員会のずさんな見通しによって国民が爪に火を灯して蓄積した、なけなしの国費が際限なく国外に流出し続けているのである。
このままでは全原発が再稼動するまでに流出する国費は55兆円にもなりかねない。
原子力規制委員会は当初どのような見通しを立てていたのか、そしてその計画がなぜ成立しなかったのか、を詳らかにし、この大出血を止める処方箋を示す。
1.大飯発電所の前例はなぜ踏襲されなかったのか
関西電力大飯発電所3号機は福島事故の後、2012年7月5日に、また、4号機も7月21日に再稼動した。いずれも当時の菅首相の指示で実施した一次ストレステストの結果を旧原子力安全委員会及び原子力安全・保安院が妥当と認め、関係閣僚が協議の上決定したものであった。
ところが、当時の民主党政権は他の原子力発電所の再稼動は新規制機関の判断に委ねるとして見送った。同年9月19日に発足した原子力規制委員会は稼働中の大飯3,4号機の稼働を追認したものの、他の原子力発電所を同じような手順で再稼動させなかった。
ここに大きな疑問が存在する。大飯3,4号機が旧基準のまま再稼働を認められたのに、なぜ他の原子力発電所はそれを認められなかったのか、という点である。
電力会社は当然、早期再稼働を望んでいたと考えられるが原子力規制委員会の委員長に就任した田中俊一氏が「新規制基準の審査は3つの手続きの並行審査によって半年で終える」との見通しを示したことから、拙速に旧基準のまま再稼働を急いで反発を招くより、半年程度の遅れなら新規制基準に適合させた上で再稼働させた方が関係先の理解が得やすいと考えたのではなかろうか。
これが大きな誤算であった。全ての誤算の原点は田中委員長のこの「半年で審査できる」とした見通しにある。電力会社に限らず、恐らく政府上層部も半年程度なら代替燃料費の出費も許容範囲、と見ていたのではないかと考え、静観していたのではないだろうか。
2.代替燃料は12.7兆円の巨額に上り、増加し続けている
原子力発電所停止の代替電源確保のための燃料費は図1に示す通り、2014年までの4年間で総額14.7兆円に上っている。
仮に、今後毎年2基ずつしか再稼働できないとしたら、代替燃料費は一体いくらに膨れ上がるのであろうか、2014年度の代替燃料費を待機基数に比例するとして試算すると、48基全てが稼働するまでに、なんと57.2兆円もの天文学的金額になる。48基の内、5基は廃炉が検討されているので、実際に再稼働するのが40基に減ったとしても、55.6兆円である。
いくら安全性を高めるためとはいえ、55兆円ものお金をかけても良いとは誰も考えていなかったのではないだろうか。