再生可能エネルギーの普及策 抜本見直しを(後編)


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(会議所ニュース2014年11月1日号からの転載)

再生可能エネルギーの普及のために導入された全量固定価格買取制度(FIT)が行き詰まり、政府は制度の見直しの検討を開始している。今後、電力自由化が進展する中で、再エネだけを特別扱いすることは難しい状況だ。FIT導入先進国であるドイツでは、すでに多くの矛盾が噴出している。今回も、前編に続き、再生可能エネルギーの今後の課題を探る。

今後の負担見通し

 制度導入からこれまでの間に認定された設備が運転開始した場合、平均的な家庭(月の電気使用量が300kWh)の負担額は現在の225円から935円に増えることとなる。より深刻なのは産業界、特に中小企業への影響だろう。前編で電気料金のデータをご紹介した企業では今後どれほどの電力料金増が見込まれるのか。
 下記の図表のうち、2013-aは13年の電気代をベースに再エネ賦課金が3.12円/kWhまで上昇したケース、2013-bは再エネ賦課金が3.12円/kWhまで上昇、加えてさらに電力料金単価が15%上昇というダブルパンチのケースである。
 既にこの原稿執筆時点で北海道電力の再値上げが認可され、他電力の再値上げも時間の問題であろう今、残念ながらダブルパンチのケースの方が蓋然性が高い。ちなみにこれまでの経緯からも明らかな通り、自由化されていない家庭部門の電気料金の上げ幅は相当抑制されているが、自由化されている産業向けの上げ幅は大きく、20%を超える場合もある。
 再エネ賦課金の上昇だけ織り込んだ2013-aの場合で約700万円、再エネ賦課金の上昇と15%の電気料金上昇を見込んだ2013-bの場合では約1150万円の電気代上昇を覚悟せねばならないことを、このグラフは示している。
 単価が上昇するなら量の削減で対応するしかユーザーには対応する術が無い。しかし、すぐに2割あるいは3割節電できるほど無駄な経営をしている企業は日本にはそうそう無いだろう。
 実際、この工場でもFEMS(Factory Energy Management System)を活用。限られた電力を効率よく使用する取り組みを行っているが、12年7月からの1年間と13年7月からの1年間を比較すると、その電力使用量は5%弱しか削減できていない。
 消費税も電気料金も製品への価格転嫁が当然認められてしかるべきであるが、現場ではなかなかそうはいかないのが実態だろう。特に、これだけの短期間で急上昇されると製品への価格転嫁交渉も十分にはできないであろうし、ましてやこのコスト増分を補うほどの売上増を達成することが難しいことは想像に難くない。
 コストカットで捻出すると言っても、資本金3800万円、従業員35人の会社において、どれほどの削減余地があるのだろうか。再値上げが決定した北海道では、道庁がその影響調査を行っているが、企業へのヒアリングでは悲鳴のような声が上がっている。
 ドイツでは、国際競争にさらされる電力他消費産業は賦課金を減免され、その分の中小企業や家庭にしわ寄せがいくため、12年8月には繊維業界3社が「再生可能エネルギー法による太陽光発電などへの助成は憲法違反である」として訴訟を提起、業界団体が全面支援を表明したことも報じられている。わが国においても電力多消費産業に対する減免措置は取られているが、その補填は国の予算措置で行われるため(今年度減免対策予算として290億円が措置されている)、中小企業や家庭の賦課金がその分も増大するということにはならない。
 しかし、負担する手段が賦課金から税金に変わるだけなので、一般消費者や生産拠点を海外に移転することが容易にできない中小企業に大きな負担が掛かることは避けられないのだ。

20150114

再エネ導入によって温暖化対策は進むのか

 そもそも再エネの導入を拡大する目的はなにか。
 自給率向上というエネルギー安全保障の観点や雇用創出の効果など、再エネ導入には「多様なメリット」があると主張される方が多いが、その本来の目的は温暖化対策として温室効果ガス削減にあったはずだ。
 では、再エネの導入が進めば温室効果ガスの排出量は削減できるのであろうか。ドイツの事例を見てみたい。
 ドイツでは2000年にFITを導入して、再エネによる発電電力量による割合は13年には23.4%を占めるまでになっている。そして、ドイツ連邦環境省が毎年発表している報告で、11年単年では、FITの補助を受けた電気によって約7000万トン、その年のCO2排出量の約8%が削減できたとされている。
 11年の再エネ賦課金(FITによる補助の総額)総額は135億ユーロ。135億ユーロで7000万トンということは、単純に1トンの削減に190ユーロを上回るコストがかかったことになる。
 欧州の排出権取引市場では、最も高値であった08年上半期でもCO2 1トンあたり20ユーロを超える程度であり、現在は3~4ユーロ/CO2 t程度まで価格が下落している。同じ1トンのCO2を削減するならコストが安い方が良いのは当然だ。逆に同じ金額を使えばより多くのCO2を削減することができるのだから。
 その点で実は再エネは、温暖化対策としては費用対効果が悪い、と数々の研究が指摘している。特にFITは「全量を固定の価格で長期間買い取る」ことを約束してしまうので、他の再エネ支援策と比べて消費者負担が大きくなってしまい、CO2 1トンあたりの削減コストもまた高価になってしまうのだ。
 また、実は、再エネの導入は順調に進んでいるのに対し、ドイツのCO2排出量全体では増加するという皮肉な事態が生じてしまっている。12年は、11年と比べて1.6%排出量が増加しているのだ。
 その要因としてアルトマイヤー環境大臣は、石炭火力発電が3.4%、褐炭火力発電が5.1%増加したことを指摘した。これは、自由化された市場と、その外で特別扱いされる再エネが混在することで生じる皮肉である。
 FITによる補助金をもらっているので、再エネの電気は圧倒的に安い値段で市場に売り出される。こうした安い再エネ電源が大量に入ると、市場で取引される電力の価格が低下するため、環境性には優れているものの燃料費の高い天然ガス火力は競争力を失い、CO2排出量は多いけれど安価な石炭・褐炭火力などが優位性を持つようになる。13年、ドイツ国内の褐炭火力の稼働は東西ドイツ合併後最高を記録したと報じられており、アルトマイヤー環境大臣のコメントを裏付けている。
 再エネの導入がCO2削減に直結するわけではなく、市場の変化によっては全体として排出増加となることもありえるということを、ドイツの事例は示している。再エネ導入は、その本来の目的に立ち返り費用対効果の観点を踏まえて普及策の制度設計をしなければならない。

再エネ普及策の今後

 日本における再エネは、いまだ発電電力量の5%程度にとどまっており、その普及拡大が重要な課題であることには異論がないだろう。しかし、あくまで再エネは発電の一方途に過ぎず、エネルギーミックス全体として3Eのバランスの中で考えねばならない。
 FITの導入を定めた再生可能エネルギー特別措置法は、その附則の10条において、見直しのポイントを定めている。この定めに従い、制度の見直しを行うべきであろう。すでに導入量が過大になりすぎたメガソーラーの買取停止、買取単価の抜本的見直し、買取単価見直し頻度の向上、設備認定のタイミングを設備の運転開始時点に改めることなどが求められる。しかし、ここまで問題点が明らかになっている以上、FIT制度そのものを廃止し、再エネ普及策を根本から見直すことも真剣に検討されるべきであろう。今後電力システム改革により自由化が進展する中で、再エネだけが究極の総括原価主義におかれることによる不具合もあるからだ。
 今後、消費税が上がり、原子力発電所の停止長期化により電気料金が上がり、そこに再エネの賦課金上昇が加わる。この状況を現実感を持って受け止め、早急に議論する必要がある。

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