COP20 参戦記(その3 最終)
-COP20で何が決まったのか-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
また、約束草案に含める情報については、「clarity, transparency and understanding(明白で、透明性があり、把握できること)」であるべきという先進国が求めてきた表現は含まれているが、参照ポイント(適切な場合には基準年を含む)に関する定量化可能な情報、実施のタイムフレームや期限、スコープと対象範囲など、さまざまな情報を「may include」という弱い言い方になっている。結局、約束草案に含めるべき情報の決定権限は各国にあることを確認して、やっと妥協ができたということのようだ。
目標を出す時期についても結局COP19で決まったことから全く踏み出していない。昨年から言われている「COP21に十分先立って」という文言と「準備ができた国は2015年の第一四半期に」という文言がそのまま今回の合意文書13条に残っている。10月1日までに各国が提出した約束草案のaggregate effect(全体効果。すなわち、各国の目標値を積み上げ全体の削減量がどの程度に達するかを確認する意図)に関する統合レポートを、11月1日までに事務局が作成することとなっている(16条b項)が、しかし11月30日にはCOP21が始まるのだ。各国の目標に対する「事前コンサルテーション」は、中国やインドを中心とする新興国などの強い反対によって今回の合意文書では何ら言及されていないが、11月1日に統合レポートができるというスケジュールでは実質的に事前コンサルテーションなどやりようがない。
このように、さまざまな論点について、「Nationally determined」であることが確認され、その前提のもとにやっと合意がとれたということなのだろう。
では、今回の合意は、日本にとってはなにか影響があるだろうか。結論から言えば、目標提出時期についての表現も従前どおりであり、特に考えられそうな影響は無い。米中がCOP直前に共同で目標を発表したことで、日本が出遅れていると書き立てる報道が多くあったが、しかし実は米国・EUは第一四半期に提出することを明言し、中国が第一四半期に提出する努力をするとしていること、豪州が「来年の中頃」という表現を使った以外は、提出時期について明らかにしている国はない。日本政府も「できるだけ早期に提出することを目指す」としか表現していないが、年明けからエネルギーミックスに関する議論を加速させること、6月に開催されるG7やADP会合、あるいは遅くとも9月の国連気候変動サミットが目処であることなどに変りは無いだろう。
資金支援についても、既に安倍首相が11月のG20 で発表したとおりだ(国会の承認が得られれば最大15億ドルを拠出)。
要は、今回の合意文書には勝者も敗者も無い。それこそがボトムアップ・アプローチに転換した意義なのであろうが、温暖化対策としての実効性から考えると国連交渉による対応の限界が明らかになったとも言える。産官学の連携による技術開発やビジネスの世界で省エネ・高効率技術が普及する仕組みを多層的に構築する必要性を強く感じた。
2015年にはADP会合が追加的に3〜4回開催されるというが、国連交渉の場を増やすことで果たして解决するのであろうか。これまで費やされた膨大な時間と体力とコストを考えると暗然たる思いにとらわれる。パリでのCOP21の正式な会期は11月30日から12月11日だ。しかし、ホテルはいつまで抑えるべきか。帰りの飛行機は何日の何時頃出発のものを予約すべきか。まずはそれが問題だ。