COP20 参戦記(その2) ドイツ政府主催のサイドイベント
-再エネ増えて排出量も増える、の怪-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
12月9日火曜日、ドイツ政府主催のサイドイベント、「The German action programme for climate mitigation 2020: How to reach the 40% reduction target」に参加した。ドイツ連邦政府のBarbara Hendricks環境大臣(正確にはFederal Minister for the Environment, Nature Conservation, Building and Nuclear Safety)が講演およびパネルディスカッションを行うとあって聴衆の関心も高く、会場には多くの人が訪れていた。
ドイツ政府は温室効果ガスの排出量を1990年比で2020年までに40%、2050年までに80%~95%削減するという高い目標を設定している。しかし、現状では、2020年までに32〜35%の削減にしか見込めず目標未達になる恐れが高いことから、追加的にCO2換算で6200〜7800万トンの削減を行うことを目的に、12月3日、ドイツ内閣は「アクションプラン」を採択した。COPを前にして採択を急いだのかもしれないが、具体性が無いという批判的な報道も多い注1) 。昨日のイベントでヘンドリクス環境大臣は、アクションプランの内容を説明し、特に再生可能エネルギー導入のさらなる促進を強調した。
しかし、再生可能エネルギーの導入がこれだけ進むなかで(ドイツの発電電力量のうち再生可能エネルギーの占める割合は、2000年の6.6%から2013年には23.4%に拡大している)、実はここ2年ほどドイツのCO2排出量は減っていない。2012年は前年比1.6%、2013年も前年比1.2%の増加を見せている。拙著「誤解だらけの電力問題」の中でもご紹介したが、これは、自由化された市場とその外で特別扱いされる再エネが混在することで生じる皮肉である。FITによる補助により、再エネの電気は圧倒的に安い値段で市場に供給される。こうした安い再エネ電源が大量に入ると、市場で取引される電力の価格が低下するため、環境性には優れるものの燃料費の高い天然ガス火力は競争力を失い、CO2排出量は多いけれど安価な石炭・褐炭火力などが優位性を持つようになる。炭素価格が相当高額になれば話は別であるが、現状のように1トンあたり数ユーロという低価格では、天然ガス火力は市場で生き残れない注2) 。そのためドイツ国内では老朽化した褐炭火力発電所の稼働が増え、2013年にはドイツ国内の褐炭火力の稼働は東西ドイツ合併後最高を記録したと報じられている。
その上、振れ幅の大きい再エネにあわせて出力調整を迫られる火力発電所の運用は相当非効率になる。設備に大きな負担がかかるのはもちろんだが、運転効率が低下してしまいエネルギーロスが大きくなる。
こうした事情により、実は再エネの導入拡大とCO2排出抑制はリンクしない。もちろん温室効果ガス排出量を最も左右するのは景気動向であるため、低炭素電源が増えたとしてもその効果が打ち消されてしまう事態も当然生じるのであるが(リーマン・ショックの起きた2009年には各国の排出量が大幅に減少した)、アルトマイヤー前環境大臣は以前、褐炭火力発電所の稼働の増加も要因の一つと言及している。
なお、ドイツ政府のパンフレットなどでは必ず1990年を起点とした温室効果ガス排出量の推移が掲載されている。
このグラフを見ると、右肩下がりで排出量が減っているように見えるのであるが、同じグラフを2000年以降で切り取ってみる。
ドイツが全量固定価格買取制度を導入したのが2000年。それ以降再生可能エネルギーの導入量は急拡大したが、2000年以降の排出量にそれほど目立った減少は見られない。実は1990年代の減少は東西ドイツ合併により、東ドイツに西側の高効率技術が流れ込んだことによる部分が大きいのである。
- 注1)
- 例えば下記
http://www.carbonbrief.org/blog/2014/12/analysis-germany-climate-action-plan-to-save-emissions-reduction-goal/
http://www.rechargenews.com/wind/1385509/German-climate-action-plan-short-on-fine-details
- 注2)
- IPCC第5次報告書において、EU-ETSの低価格は構造的要因によるものであり、炭素価格は期待されるよりも低く低炭素投資は進まなかったと指摘されている。