再生可能エネルギーの普及策 抜本見直しを(前編)
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
再エネ賦課金が急上昇する理由~FITの構造的問題~
再エネの賦課金はなぜこのようなスピードで増加していくのか。改めてこの制度の構造を見てみよう。FITは再エネの電気を、全量、固定の価格で長期間買い取ることを約束することで、再エネへの投資を促すことを目的とする制度である。買取単価は、技術が普及し設備の価格が下がるにつれ段階的に下げていくこととされている。
わが国でも例えば、10kW以上の太陽光発電設備によって発電された電気の買取価格は、2012年度に認定された設備の場合、42円/kWh(40円+税)、2013年度に認定された設備では37.8円(36円+税)/kWhと引き下げられている。買取価格が下落するので、消費者負担は徐々に減っていくと誤解している方が多いのだが、買取費用総額は、買取単価と再エネによる発電量を掛け算した金額の合計なのだ。
制度導入からの年月経過に伴って、下記の図のように層が積み重なっていくので、需要家が負担する総額は増加していく。先に事例としてあげた10kW以上の太陽光発電設備の場合では20年と、長期の買取を約束する制度であるため、負担の大きさに気が付いて、例えば制度導入から5年目に制度を廃止したとしても、既に導入された分の負担についてはずっと国民が負担し続けなければならないのだ。FITは本来国民負担の総額をコントロールすることができないので、ドイツなどFIT導入諸国では、結局、量的規制を導入している。
また、これまでの認定設備のうち約96%が太陽光発電であることからも分かるとおり、再エネの中での技術の偏りを防ぐ手段もない。最近になって電力各社が系統制約を理由に再エネの接続に関する回答を一時保留することとなり話題になったが、FITには導入量の地域的な偏在性を防ぐ手段もない。
もともと土地が安く再エネ事業者にとっては魅力的な場所は、電気の需要が少なく十分な送電設備が無い。再エネ事業の地域的な偏在が生じ、系統制約が問題となることは当然予想されたのである。
そして、FITは今ある技術を普及させる力はあるが、技術開発を促進する力は弱い。これらがFITの構造的問題点である。
加えて、日本固有の問題点もある。わが国では、再エネを至急拡大するという命題のもと、法律施行後3年間は、「再エネ事業者が受けるべき利潤に特に配慮する」とまで定め、あまりに事業者を過保護にする制度設計をしてしまったのである。
買取単価は調達価格等算定委員会の意見を反映して経済産業大臣が決定することとなっているが、その決め方は究極の「総括原価主義」である。例えば日本のメガソーラーの買取価格はドイツなどと比較して2倍近い価格に設定されている。太陽光パネルなど、設備は世界のどこから買ってきても良いのであり(そのため、ドイツはこれほど太陽光発電の導入量が増えたにも関わらず、国内の太陽電池メーカーの倒産が相次いでいる)、施工の人件費や土地代の差以上に海外と比べて高い買取価格を設定する理由はない。
さらに、FITを導入している諸外国では、設備が実際に稼働を始めるタイミングによって、適用される買取単価が決定されるが、日本においては書類申請によってその認定がなされてしまう。とりあえず書類申請を先行させ、高い買取単価で買い取ってもらえる権利を確保しておく「枠取り」のような行為も見られるとして、経済産業省は土地も設備も確保していない事業者の認定を取り消す措置に出た。適用される買取単価が定まっていないと、再エネ事業者の資金調達がしづらいのは確かだが、「枠取り」によって「悪貨が良貨を駆逐する」事態になっていることもまた事実だ。