河野太郎議員の電力批判、「スマートではないメーター」への疑問

過大な機能を搭載すればかえってメタボなメーターに


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「WEDGE Infinity」からの転載)

 東京電力福島第一原子力発電所事故とその後の計画停電の経験等により、電力システム改革議論が政治的に一気に加速した。今後3段階に分けて改革が進められる予定であり、2016年には電気の小売業への参入が全面自由化、2018年には法的分離による送配電部門の中立性の一層の確保、電気の小売料金が全面自由化となる予定である。

 こうした中で特に精力的に発言をされているのが、自民党の河野太郎議員である。改革を求める強い意志に基づく議員の発信や発言には、これまでのシステムを前提として考えがちな自身の思考回路に気付かされることも多くあるが、同時に、電力という商品の難しさや現場の実態が伝わっていないと思わされることも多々ある。これまでの議員の発言や発信の中で、電力供給の現場にいた筆者から見て違和感を感じる点について事実関係を整理し、改めて議論を喚起したい。

河野議員が主張する「スマートではないメーター」

 今後電力市場に新規参入者が増え、活発な競争が行われるために重要なファクターとなるのが、スマートメーターを通じた需要家ニーズの把握と、それに対するサービス体制の整備とされている。

 河野議員も、「ごまめの歯ぎしり」と題したブログで度々このスマートメーターについて言及されているが、7月25日に掲載された「電力会社の利権を守る戦い」にはタイトルを含めて首をかしげざるを得ない点が散見される。まず議員の主張を整理すると下記の囲みのとおりである。

2014年7月25日付ブログ記事 「電力会社の利権を守る戦い

もう一つの問題は、電力会社が作ろうとしているスマートではないメーターだ。
家庭用を中心とした低圧のスマートメーターを、電力会社はバケツリレー方式、俗にいうマルチホップ方式と呼ばれるものでやろうとしている。30分間の電力使用量をはじめとするデータを、次の4時間以内に送りますという仕様だ。電力消費量のデータが4時間経たないとわからなければ、ピークカットに役立たない。
現状でも大口の高圧のデータは、30分間のデータを次の30分の間に送ることができる。高圧でできることを低圧ではやらないというのはおかしい。
(中略)
電力料金の計算は、関東と関西で違う。関東ではブレーカー値に基づいた基本料金があり、それに従量料金が加わってくる。ブレーカーによって最大電力量が決まる。関西ではブレーカー値がなく、最低料金に従量料金が加わって料金が決まる。
スマートではないメーターの統一仕様にはブレーカー値が入っていない。電力会社は、今までのやり方を踏襲したいだけで、新しくどんなサービスができるようになるかという視点でスマートメーターの仕様をつくっていない。

 最初にスマートメーターによる電力消費量データ伝送の考え方を、図1により説明する。
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 スマートメーターから電力消費量データの伝送は、主に2つのルートがあり、図2のAルート、Bルートがこれにあたる注1)。Aルートは電気料金算定用のデータを集めるのが主目的であり、Bルートは需要家の家庭内に直接データを伝送しHEMS(Home Energy Management System)等を通して、新たなサービスを提供することが主目的である。

 議員が、「電力消費量のデータが4時間経たないとわからない」と言及しているのは、Aルートを指している。ここのデータ伝送の頻度については、このブログ掲載後、議論が進んで、30分間のデータを次の60分の間に送る仕様に見直すことで決着したようだ。高圧需要家で30分でやっていることが60分になるのは、データの量が2ケタ増えるのが主な原因と聞いている。

 とはいえ、「電力消費量のデータが4時間経たないとわからない」仕様が、スマートでないと揶揄されることかと言うと、このようなデータのフィードバックは、海外では翌日になるのが主流である。ロードプロファイリング注2)を適用している事例が多いので、そのようなニーズが少ないこともあると思うが、4時間以内に伝送する仕様でも、海外では過剰な設定だと思われるだろう。それではピークカットに役立たない、というが、そのためにBルートが用意されている。Bルートはほぼリアルタイムでデータの伝送が可能であるし、電力消費量も30分毎ではなく、もっと細かい粒度のデータ(例えば5分毎)として活用が可能である。Aルートは、もともと電気料金の算定のためのデータ採取が主目的であるので、30分毎の消費電力量以上に細かい粒度のデータの採取は必要ないし、費用を考えればするべきでもない。

注1)
正確にはもう一つCルートがあるが、ここでは省略する。
注2)
ロードプロファイリングとは、サンプルデータ等を用いて消費者グループの平均的な消費パターンを推計すること。この手法を用いることで、需要予測の透明性・中立性・精度の向上をはかるとともに、決済の時間区分に対応したメーター(インターバル・メーター)による計量を行わずに通常のメーター(例:月間の使用量(kWh)を計測するメーター)のままで推計された需要をもとにインバランス決済を行うことが可能となる。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/electric_power_industry_subcommittee/005_002/pdf/002_004.pdf

「電力会社のサボタージュ」?

 また、後半部分では、関西電力のメーターの仕様にブレーカー値が入っていないことを「電力会社は、(中略)新しくどんなサービスができるようになるかという視点でスマートメーターの仕様をつくっていない」と批判している。しかし、新しいサービスがどんなものになるかなど誰も分からない。東電のメーターにはブレーカー値が入っているのは、現に数千万軒の需要家がブレーカー契約をしているからであって、自由化後この様な契約が関西地域においても主流になるかは誰も分からない。関西地域でそのようなニーズがあるなら、HEMSにブレーカーの機能を持たせればよい。

 おしなべて全ての需要家が備えなければならない設備に、どの程度活用されるかはっきりしない仕様を実装してしまうのは、スマートメーターを過大な機能を搭載したメタボなメーターにすることであり、無駄が生じるリスクがある。日本の家電製品は、消費者が使いこなせるかどうかは別としてとかく高機能化し、その結果消費者からすれば「無駄に高い買い物をさせられた」と思うことも多い。スマホにしてもテレビ、DVDにしても、その機能の3割も使いこなせていないのだろうとため息をついたことがあるのは私だけではないはずだ。

 その点、メーターの機能は必要最小限に、高度な機能は、個々の需要家のニーズの違いにより柔軟に対応できるHEMSに期待、という今の考え方は合理的であり、電気という究極の生活財、生産財のメーターのあり方として適切であると筆者は考える。

 また議員は、同日のブログの中で、電力会社のサボタージュと称して、次の事例もあげておられる。

電力の自由化は安倍内閣の三本目の矢の目玉の一つだ。が、電力会社が必死にサボタージュをしようとしている。例えば楽天リサーチによるインターネット調査によれば、男性の25%、女性の33%が「電気代に関わらず原発を保有する従来の電力会社を選択したくない」と答えている。
数字はともかく、それなりの数の消費者が自由化されれば電力の購入先を変えたいと思っているのはまちがいないだろう。そこで問題になるのは、携帯電話を乗り換えるようにワンストップで電力会社を乗り換えられるようになるかどうかだ。
専門家によれば、乗り換えは簡単で、自宅の電力のメーターの番号を新しい電力会社に通知すれば手続きは終わるそうだ。しかし、これに既存の電力会社が難色を示し、なりすましの恐れがあるからきちんと確認ができるようにしないとだめだと主張している。
そもそも現在の電力のメーターは、検針員が確認をするために屋外に設置され、そのために雨風をしのぐためのスペックが必要になっている。屋外の人の目に触れるところに設置してあるメーターだと、誰でも番号を読み取って、なりすますことができるから、様々な対策が必要だというのが既存勢力の主張らしい。
しかし、現在の通信環境であれば、屋内の配電盤に小さいメーターを設置し、データを飛ばせばよいので、誰でも番号を読み取ってなりすますことができないようにすることは簡単だ。

 需要家の乗り換え手続きについては、目下、関係者の間で議論が行われている最中である。実際に担当している電力関係者に確認したところ、新電力、資源エネルギー庁、有識者(弁護士)を交えて議論しているが、なりすましの対策は特に行わない前提で議論を進めているとのことであり、このブログの指摘は何を指しての批判なのかわからないとのことであった。

 そして、議員が提案されているように、スマートメーターの全戸屋内設置をもってなりすまし対策とするのは、全面自由化が2年後に開始されることを考えれば時間軸が現実的ではないので、筆者もこの批判の意図は理解できなかった。

 検針員が見て回る必要はないので、スマートメーターは屋内設置でよい、との主張はその通りである。検針頻度の少ない欧州では屋内設置が主流であるし、雨風をしのぐためのスペックが不要になればコストダウンも可能だろう。

 しかし日本では現在、数千万軒の家庭が屋外にメーターを設置しており、屋内にメーターを移すのであれば配線改修工事が必要になる。莫大な改修工事のコストと時間をどう考えるのか。また、木造であれば良いが鉄筋の家などでは通信データが飛びづらくなり何らかの対策を講じる必要が生じる可能性もある。議員が指摘する「現在の通信環境」が携帯電話の電波であるとすれば、いまのスマートメーターの通信方式よりコスト高になってしまう。そういった現場の実態を踏まえた検討もされた上での発言なのか、このブログからは明らかではない。「サボタージュを推奨するのか」と議員には言われそうだが、きちんと議論を尽くすべき論点ではないだろうか。

 自由化による消費者利益を最大化するためには、現場の実態を踏まえ、トータルで見て最小の消費者負担で、最大限の消費者ニーズに応じるという観点から、冷静な検討と議論をする必要がある。河野議員には広い国民の代表として、現場の実態を見て幅広い関係者の情報に耳を傾け、公平中立な議論を促す「行司役」となっていただければと思う。

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