世界と日本の人口問題:食料とエネルギーの需給の問題に関連して(その1)

世界の人口を究極的に左右するのは化石燃料の枯渇であろう


東京工業大学名誉教授

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世界の人口増加より深刻なのは経済成長を支えてきた化石燃料の枯渇である

 しかし、経済成長には、エネルギーが必要である。現在、このエネルギーの大部分は、産業革命以降使われるようになった化石燃料で賄われている。世界の現在(2012年)の経済条件の下での化石燃料の確認可採埋蔵量Rを、同じ年の生産量Pで割って求められる可採年数R/P が、石炭で109年、天然ガス55.7年、石油52.9年と与えられている(BP社による値(文献3)。したがって、世界各国が経済成長を目的として、化石燃料の消費を継続すれば、確実に、今世紀中に地球上の化石燃料が枯渇する時がやってくる。
 これに対し、化石燃料の代替に自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー)を使えばよいと言う人も多いし、確かに、そうすべきである。しかし、現在、化石燃料で賄われているエネルギー量を、自然エネルギーに置き換えることは経済的に非常な困難を伴う。それは、現状では、自然エネルギーを生産・利用するためのコストが、化石燃料に較べてかなり高いからである。さらには、自然エネルギーの殆どは電力としてしか利用できないが、電力は人類が生活と産業用に使っているエネルギーの資源量として表される一次エネルギー消費量の約半分しか占めない。したがって、現状では、自然エネルギーによる化石燃料消費の代替可能量は、一次エネルギー消費量の約半分に止まると言う厳しい現実を、世界中が認識しなければならない。
 ところで、世界の現状の経済成長と連動する化石燃料消費の削減であるが、その主体を担うのは工業先進諸国でなければならない。それは、世界には、貧困からの脱出のために成長を優先させなければならない途上国がまだ多数あるからである。2011年のIEAの統計データ(文献3)から、OECD34を工業先進諸国とみなすと、その一次エネルギー消費は石油換算で5,305百万トン、これに対し途上国とみなされる非OECDのそれが6,465百万トンと、ほぼ、半々に近いから、世界中が一人当たりのエネルギー消費を同じにするとの公平性の維持の原則に立って、途上国の化石燃料消費の増加分を先進国がその消費の削減で賄うことで世界の化石燃料消費の増加を抑制することが可能となる。

化石燃料の枯渇に備えるエネルギー政策推進の具体策

 先進国、途上国間のエネルギー使用での公平性をできるだけ守ることを目標とすることとして、先進国を中心に、世界各国が、現在、採っている成長政策を転換して、徹底した省エネ政策を導入するための具体策を考える。2011年の各国の産業、民生(農業・他を含む)、運輸の3エネルギー消費部門別の一人当たりの最終エネルギー消費量を表3に示した。この3 部門のエネルギー消費量は、表中の世界の値に見られるように大雑把に見て3分されている。この中で、産業部門については、他の2部門に較べて、先進国と途上国との較差が小さい。この産業部門の省エネは、各企業の利益につながるから、先進国においても、すでにかなり実行されていると考えてよい。これに対して、民生(農業・他)、運輸の両部門は、いわば豊かさへの欲望につながるから、先進・途上国間の格差が大きい。したがって、世界の省エネ対策の推進では、先進国での民生、運輸の両部門の省エネの徹底が強く求められなければならない。

世界・各国のエネルギー消費値

 化石燃料が枯渇に近づけば、その代替となるエネルギー源は、自然エネルギーと原子力エネルギーであろう。しかし、先にも述べたように、両者はともに、電力としてしか利用できない。生活における利便性の追及で、電力エネルギーへの依存度を高めてきた文明社会であるが、現在、世界で、資源量として表した一次エネルギー消費の半分近くを占める電力を100 % 近い依存度にするには、人類社会のエネルギー消費構造の大幅な変革が必要になるが、これには極めて難しい技術開発課題が含まれている。
 いま、世界各国に求められていることは、限られた化石燃料資源を、できるだけ公平に分け合って大事に使って長持ちさせることで、それが、持続可能な人類社会を創りだす唯一の方法でなければならない(文献5参照)。

<引用文献>

1.
久保田 宏、伊香輪恒男:ルブランの末裔、明日の科学技術と環境のために、東海大学出版会、1978年
2.
水野和夫、川島博之 編著:世界史の中の資本主義、エネルギー、食料、国家はどうなるか、東洋経済新報社、2013年
3.
日本エネルギー経済研究所編「EDMC / エネルギー・経済統計揺籃2014 年版」、省エネセンター、2014年
4.
メドウスほか(大来佐武郎訳):成長の限界、ダイヤモンド社、1972年
5.
久保田 宏:経済成長を前提としたCO2排出削減の行動を求めているIPCC第5次評価報告書の大きな矛盾、ieei

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